ショートショートの神様4
ショートショートの神様、星新一。
製薬会社の御曹司であり
将来は半ば約束されていたが、
経営者向きの性格ではなかった。
社長に就任した一年後、
彼はすべての権利を譲り渡すことになる。
それからは、毎日のように有楽町の碁会所で碁を打ち
映画を見て、親友たちと酒を飲んだ。
女性とデートすると、天体の話をした。
そうは言っても、地球と火星の距離はどれくらいか、というような
ロマンチックとは無縁のこと。
そんなある日、一冊の本に出会う。
そのときの興奮は、彼の日記に残されていた。
ハレ カゼヒイテウチニネテイル 火星人記録ヨム コンナ面白いのはめつたにない
レイ・ブラッドペリのSF小説「火星人記録」。
実業家としての道を閉ざされた青年は、
きっと心が洗われるような思いで、ページをめくったのだろう。