大友美有紀 12年11月17日放送
パウル・クレー「食卓の言葉」
ゲルストット
1920年から30年にかけて
画家として黄金期をむかえたパウル・クレー。
しかし、近代芸術を退廃的なものと見なしたナチスに
突然、家宅捜索され、迫害される。
クレーは故郷ベルンのあるスイスへの亡命を決意する。
クレーの日記は、バウハウス時代から途絶えていたが、
スイスへ移り住んだ後の、メモ書きのようなものが残っている。
幼い頃からヴァイオリンの名手だったクレーは、
晩年、演奏と食事を楽しみに日々を過ごしていた。
1935年、55歳の時のある1日。
1月3日木曜日。ロートマールのところで弦楽四重奏、
シューベルトのト長調。チェロはガンギエ嬢。
クンスハストでクリスマス市。ゲルストット、カリフラワー、
ミックスサラダ。調理時間44分。バター、玉ねぎ、ニンニク少々、
セロリー10分フタをして蒸す。大麦をきつね色に炒め、
熱湯を注ぎ、最後にチーズ。
ゲルストットとはクレーの造語。「ゲルスト」はドイツ語で大麦。
トットはおそらくイタリア語のトゥット「たくさん」からきているのだろう。
再現してみると、やさしい味わいの大麦スープになる。
スイスに亡命し、妻リリーと質素に暮らす中の、愛情を感じる料理だ。