名雪祐平 12年12月30日放送
百年前の訃報録 羽鳥千尋
百年前、その人物が亡くなった。
羽鳥千尋 無名の青年だった。
ある日、森鴎外に長い手紙を書いた。
貧しくて進学できないこと。
自分が病身なことから医師を目指したいこと。
そうした赤裸々な思いとともに訴えた。
先生。どうぞ私を書生に置いて下さい。
そのただならぬ文才と熱意につき動かされた鴎外は
陸軍軍医学校に働き口を世話する。
羽鳥はそこで働きながら
医師への試験を目指した。
その志半ば、肺結核が悪化し、羽鳥は絶命した。
享年25歳。
鴎外は羽鳥の手紙を元に、
短編『羽鳥千尋』を発表した。
百年前の青年の強烈な心情をいま、
私たちは読むことができる。