2012 年 12 月 のアーカイブ

佐藤延夫 12年12月1日放送



あの人のラブレター/カスター将軍

アメリカの軍人、ジョージ・アームストロング・カスターは、
陸軍第七騎兵隊を率いて、南北戦争の英雄になった男だ。

自分が乗った11頭の馬すべてが銃弾を受けたのに、
カスター本人は、たった一度しか負傷しなかったという逸話を持っている。

彼の立身出世に大きく貢献したのは、
南北戦争のほかに、愛する妻、エリザベスの存在だった。
エリザベスは、カスターから求婚されたときに、
こんな宣言をしたという。

  あなたが酒とギャンブルと、悪態をつく癖をやめないと結婚しない

カスターはこの約束を守り抜き、
戦地に赴くと、こんなラブレターを書いた。

  生あるあいだ、お前は俺のすべてだし、
  仮に祖国が俺の死を必要とし、運命が俺の死を望んだから、
  俺は最後の祈りをお前に捧げ、
  最後の息でお前の名前を囁く・・・。

戦争というものは、恋愛をより深い場所に連れていくのだろうか。
もっと赤裸裸で、命の形がくっきり見える場所に。

topへ

佐藤延夫 12年12月1日放送



あの人のラブレター/マージョリー・フォッサ

マージョリー・フォッサという女性は、いわゆる有名人ではない。
だが、エルヴィス・プレスリーの熱狂的なファンとして、その名が知れていた。

これは、彼女がプレスリーに出した、長いラブレターの、ほんの一節。

  絶対に、歌うことをやめないでください。
  あなたのおかげで、この世界は素晴らしい場所になっているんだもの。
  そういう力を持った歌手がもっとたくさんいればいいと思うけど、
  あなたに代わる人は絶対にいません。
  これからも死ぬまで、あなたを愛し続けます。

のちにマージョリーのもとに、
プレスリー本人からお礼の手紙とサイン色紙が送られてきた。
もちろん彼女は、銀行の貸金庫で厳重に保管したそうだ。

topへ

佐藤延夫 12年12月1日放送



あの人のラブレター/ロナルド・レーガン

アメリカ合衆国第40代大統領、ロナルド・レーガン。

彼は1981年、大統領に就任したのち、
妻のナンシーに手紙を送った。

  親愛なる大統領夫人へ
  きみが本来の職務を遥かに超えてなしたこと、すなわち、
  ある一人の男性(私)を二十九年間にわたって
  世界一幸せな人間にしてきた事実を合衆国大統領として顕彰できるのは、
  この上なく名誉ある特権である。

こんなラブレターが書けるのは、大統領ただ一人。
史上最強の役得だ。

topへ

佐藤延夫 12年12月1日放送



あの人のラブレター/ベートーヴェン

ドイツの作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
生涯独身を貫いた彼だが、
多くの女性との淡いロマンスを経験している。
その相手は、既婚者だったり、婚約者がいたり、
あるいは、自分とは不釣り合いなほどの身分の人だったり・・・。

42歳のとき、ベートーヴェンは、衝撃的な恋をする。
相手の名前は、未だに明らかになっていない。
ちょうど交響曲第七番が完成した年に、こんなラブレターを書いていた。

  貴方がどんなに私を愛していようと・・・
  私の貴方へ愛のほうが勝っているはずだ・・・
  でも、私の前から決して姿を消したりなさらないように・・・
  おやすみなさい・・・ああ、神様・・・
  これほど近くにいるのに!これほど遠いとは!

残念ながら、このラブレターが読まれることはなかった。
彼の死後、遺品の中から発見されたからだ。

この切ない真実を聞いて、少しほっとする。

青春時代、真夜中に書いたラブレター。
次の日になると考え直して、そっと机の中にしまいこむ。

おそらく同じ体験を、ベートーヴェンもしていたのだから。

topへ


login