2013 年 1 月 5 日 のアーカイブ

佐藤延夫 13年1月5日放送


Mourner
佐村河内守さんの生き方1

今までピアノを習った人なら、
誰でも一度は開いた、おなじみの教本がある。

赤のバイエルと、黄色のバイエル。

広島に住む、才能豊かな四歳の少年は、
この二冊をわずか四ヶ月でマスターした。
いつもお母さんは隣に座り、
ミスタッチをすると、竹の物差しで手を叩いたという。
それでも少年は、ピアノを弾ける喜びに包まれていた。

作曲家、佐村河内守さんが思い出すのは、お母さんのこんな言葉だ。

  基本をおろそかにして、この先泣くのは、あなたです。

それは、全ての人生に通じる、愛の鞭。

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佐藤延夫 13年1月5日放送


alika89
佐村河内守さんの生き方2

作曲家の佐村河内守さんが
幼少時代に感銘を受けた曲は、
ベートーヴェンの「悲愴」だった。

叱られることを覚悟で、
「この曲を教えてください」と頼むと
いつも厳しいお母さんの表情が和らいだという。

朝6時から、復習レッスンを一時間。
学校から帰宅して5時から6時までレッスン。
夕食後に課題練習とレッスンを2時間。

こんな暮らしを続ける少年に、
練習曲とは大きく違う「悲愴」の音色は、
とても優しく聞こえたに違いない。

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佐藤延夫 13年1月5日放送


K YR
佐村河内守さんの生き方3

作曲家、佐村河内守さんとお母さんの
二人三脚のレッスンは、何年も続いた。

小学二年生になると、一年かけてバッハ作曲の「インベンション」を学び、
三年生では「ソナタ」と「コンチェルト」へ。

難関だったソナタを全て制覇した夜、
いつも標準語で指導するお母さんが、こう言ったそうだ。

  今日までよう頑張ったね。
  明日であんたは、お母さんを抜くじゃろう。
  もうお母さんがあんたに教えてあげられることは、なくなったんよ。

標準語は、指導者としての言葉。
広島弁は、優しい母からの言葉。

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佐藤延夫 13年1月5日放送



佐村河内守さんの生き方4

音楽家を志す少年が、
常に品行方正で、おとなしい性格とは限らない。

中学時代、喧嘩に明け暮れていたのは、
作曲家の佐村河内守さんだ。

音楽なんて女性がやるものだ、という恥じらいから、
学校では楽器を習っていることを隠し通した。
反面、毎日2時間のピアノレッスンのほか、
夜中まで管弦楽の知識学習を続ける。
母から教わることは全て教わったので、すべて独学で。
音楽関係の本を読み漁るほど、彼の心は飢えていた。

そして高校二年のときに、家出を決意する。
広島を出て、東京で音楽を学ぶための家出だった。
洋服上下に、下着と靴下、石鹸をひとつ。
それに五線紙と筆箱を入れると、ボストンバッグは一杯になった。

結局、この家出は未遂に終わったが、
少年のボストンバッグの中には、
「交響曲をやりたい」という夢が詰まっていた。

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佐藤延夫 13年1月5日放送


itou
佐村河内守さんの生き方5

作曲家の佐村河内守さんは、音楽大学を出ていない。
もちろん、これには理由がある。

膨大な量の専門書で独学を重ねてきたので、学ぶことはない。

特定の教授に師事すれば、自分の作風が偏ってしまう。

クラシック音楽の作曲家という壮大な夢を持つ少年は、
音大進学というレールを拒絶し、独学の道を選んだ。

数々のアルバイトを渡り歩き、
時折襲いかかる偏頭痛とも戦いながら、
モグリの作曲家として、少しずつチャンスを手にしていく。

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佐藤延夫 13年1月5日放送



佐村河内守さんの生き方6

作曲家、佐村河内守さんは、
35歳のとき、全ての聴力を失ってしまう。
迫り来る絶望と恐怖の中で、彼は、ひとつの試みをする。

ベートーヴェンの「月光」を頭の中で流し、
その旋律を五線譜に書き記す。
あとで楽譜と照合すると、一音も間違っていなかったという。

音を失っても、絶対音感は消えない。

その自信を糧に、彼は音楽の在処を見つけていく。

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佐藤延夫 13年1月5日放送



佐村河内守さんの生き方7

「交響曲第1番 HIROSHIMA」

この曲は、作曲家 佐村河内守さんの人生そのもの、なのかもしれない。

被爆二世としての生い立ち。
母とともに、レッスンに明け暮れた幼少時代。
度重なる偏頭痛の発作。
音楽家という夢。
全ての聴力を失う恐怖。
弟の死。
ゲームや映画音楽の作曲。
信頼できる仲間との日々。
二度の自殺未遂。
盲目の少女との運命的な出会い。

枚挙にいとまがないほどの出来事が、
佐村河内さんを支えた。そして苦しめた。

彼は言う。
 「闇が深ければ深いほど、祈りの灯火は強く輝く」

この曲は、全ての人に、希望の光を見せてくれる。

絶望という暗闇の奥に、ほんの少しだけ輝いて見える、
小さな暖かい光を。

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