佐藤理人 13年1月12日放送
patrick h. lauke
フランシス・ベーコン②「軍人の父」
アンソニー・ベーコンはいら立っていた。
息子のフランシスがひ弱すぎるのだ。
この間の仮装パーティで見せた女装はひどかった。
背中の空いたドレスを着て
イヤリングをつけた姿なんて女そのものじゃないか。
わが家は3世代続く由緒正しい軍人の家系。
これ以上あんなふるまいを許すわけにはいかん。
その日、寝室のドアを開けたアンソニーが目にしたもの。
それは母親の下着を試着するフランシスの姿だった。
息子がゲイだと知ったとき、
男らしさの塊のような父は何を思っただろう。
1920年代のイギリスで同性愛に対する理解など皆無。
アンソニーが感じたのはただ怒りだけだった。
家を勘当されたフランシスはロンドンに向かう。
自分がやがて20世紀を代表する画家になることなど
知る由もないその胸は、
父から解放された喜びでいっぱいだった。