佐藤理人 13年1月12日放送
Cea.
フランシス・ベーコン③「生きる恐怖」
歯をむき出して絶叫する顔。いびつにねじれた肉体。
人間とも動物ともつかない奇怪な生き物。
画家フランシス・ベーコンが描く人物はどれも、
グロテスクにデフォルメされ、破壊されている。
アイルランド独立戦争と
二度の世界大戦を体験したベーコンにとって、
暴力は日常であり、死は身近な存在だった。
彼は言う。
17のときです。道端に犬のフンが落ちていて、
それを見ているうちに突然思ったのです。
これだ、人生とはこういうものだ、と。
自分は今ここにいるけれど、
存在しているのはほんの一瞬であって、
壁に止まっているハエのように
たちまちはたかれてしまうのです。
人間はなんと無力な生き物だろう。
肉体とはただの容れ物にすぎない。
彼にとっては、生きていること、
それ自体が既に恐怖だった。
彼はその恐怖を、
うきうきする絶望
と呼んだ。