wolfnowl
雨の詩集 ①草野心平
雨の詩集。
草野心平の「石」。
雨に濡れて。
独り。
石がゐる。
億年を蔵して。
にぶいひかりの。
もやのなかに。
詩人は、
ただの石ころに、
気の遠くなる時間を感じ取る。
その石を濡らす雨もまた、
何億年も前から降っていた雨。
草野心平は、
人間でないものの眼で
この世界を愛した。
wolfnowl
雨の詩集 ①草野心平
雨の詩集。
草野心平の「石」。
雨に濡れて。
独り。
石がゐる。
億年を蔵して。
にぶいひかりの。
もやのなかに。
詩人は、
ただの石ころに、
気の遠くなる時間を感じ取る。
その石を濡らす雨もまた、
何億年も前から降っていた雨。
草野心平は、
人間でないものの眼で
この世界を愛した。
kakade
雨の詩集 ②まどみちお
雨の詩集。
まどみちおの『あめ』。
あめがふる
あめがふる
あめがふる
そらが おおきな
かお あらう
あめがやんだ
あめがやんだ
あめがやんだ
そらが きれいな
かお だした
詩人まどみちおのことは、
「まどさん」と呼びたくなる。
雨も、空も、雲も、太陽も、
まどさんから見れば、
いつも新しく生まれ変わる、
大きな生きものの一部だ。
雨の詩集 ③寺山修司
雨の詩集。
寺山修司の俳句。
梅雨のバス少女の髪は避くべしや
「15歳から19歳までのあいだに、
ノートにしてほぼ10冊、
各行にびっしりと
書きつらねていった俳句は、
日記に代わる自己形成の記録
なのであった。」
寺山修司は、そう書いている。
歌人、劇作家、劇団主宰、映画監督。
彼の多彩な才能の原点に、
俳句があった。
梅雨のバス少女の髪は避くべしや
通学のバス。
乗り合わせた同級生の少女の髪。
雨に湿って匂い立つ。
少年の陶酔、そして逡巡。
五七五に濃縮された言葉は、
短編映画のように映像的だ。
雨の詩集 ④八木重吉
雨の詩集。
八木重吉の『雨』。
雨のおとがきこえる
雨がふってゐたのだ
あのおとのように
そっと世のためにはたらいてゐよう
雨があがるように
しづかに死んでゆこう
そして、若い詩人は、
詩集を一冊だけ出して、
ほんとうに静かに死んでいった。
雨の詩集 ⑤リチャード・ブローティガン
雨の詩集。
リチャード・ブローティガンの、
『カフカの帽子』。
雨が降っている
屋根の上に
外科手術的に降っている
ぼくは
カフカの帽子のような
アイスクリームを食べた
横たわって
じっと天井を見ている
患者をのせた手術台のような
味のアイスクリームだった
ブローティガンは、
テンガロンハットをかぶって
写真に写っていることが多い。
帽子が好きなひとは、
他人の帽子も気になるのだろうか。
20世紀初頭のプラハの街角を
歩くとき、カフカはどんな帽子を
かぶっていたのだろう。
ブローティガンの言葉を通して、
見たことのないカフカの帽子を
わたしたちは想像する。
groovysisters
雨の詩集 ⑥種田山頭火
雨の詩集。
種田山頭火の俳句。
夕立が洗つていつた茄子をもぐ
40歳を過ぎて山頭火は旅に出る。
ほぼ無一文。托鉢僧の姿で物乞いし、
見ず知らずの家で、ひとつまみの米を
わけてもらったりした。
こんやの寝床はある若葉あかるい雨
五七五の形式からも、
この社会の決まり事からも、
はみ出していった、山頭火の句。
何も持たないひとの、
一種ふしぎな明るさに、
わたしたちは救われる。
雨だれの音も年とつた
雨の詩集 ⑦マザーグース
雨の詩集。
『マザーグース』より、『Rain』
Rain on the green grass,
And rain on the tree,
Rain on the house-top,
But not on me…
雨よふれ
草の上に 樹の上に
屋根の上にも
雨よふれ
ぼくだけよけてね
英国の、遠い昔の子どもたちの、
かわいい自分勝手。
jamesgrayking
雨の詩集 ⑧アーサー・フリード
雨の詩集。
アーサー・フリードの
『Singin’in the Rain』
♬〜
僕は雨の中で歌ってる
ずぶぬれで歌ってる
なんてすばらしい気分
幸せいっぱい
雲にも笑いかけて
空は真っ暗だけど
心のなかにお日様がいる
恋は準備万端
〜
そう歌いながら、
雨の中でジーン・ケリーが踊る、
ミュージカル映画『雨に唄えば』。
踊り出す直前の場面で、
彼は恋する女性を抱きしめキスをする。
恋に浮かれた男には、雨さえも、
祝福のしるしに見えるのだ。
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