2013 年 8 月 のアーカイブ

茂木彩海 13年8月18日放送



山のはなし 植村直己

日本人初のエベレスト登頂を果たした植村直己。
彼はこんな言葉を残している。

 あきらめないこと、どんな事態に直面してもあきらめないこと。
 結局、私のしたことは、ただそれだけだったのかもしれない。

夢という目標を決め、人生の山をひたすら進む。
生きることは、それくらいシンプルでいい。

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小野麻利江 13年8月18日放送


plindberg
山のはなし 「すべての山に登れ」

「山を登る」と言う時。
概して人は、上り道だけを
ひたすら上がっていくさまを想像する。

しかし、実際は山の中にも、
上り道と下り道。
広い道と細い道、さらには脇道と、
様々な表情が存在している。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」の
有名な劇中歌のひとつ、
「Climb every mountain」。

すべての山に登れ。それは、
「どんな困難にも立ち向かえ」という
意味に聞こえるが、

「人生という山の中にある
あらゆる機微を、
自分の体で感じて生きていきなさい」

そんな趣きも持っていることに、
歌詞を読むと、気づかされる。

 すべての山に登り
 すべての流れを渡り
 すべての虹を追いかけよう
 夢を見つけだすまで

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松岡康 13年8月17日放送


plindberg
アスプルンド

20世紀以降に作られた建築作品のなかで
最も早く世界遺産に登録されたもの。
それは、教会でもコンサートホールでもなく「墓地」だった。

スウェーデンの建築家エリック・グンナール・アスプルンドが
25年もの歳月をかけて完成させた「森の墓地」。
ストックホルムの丘陵地帯の地形をそのまま生かし、
礼拝堂や火葬場も森に溶け込むように建てられた。

静かで、雄大。それでいて機能的。

礼拝堂の門にはアスプルンドの言葉が記されている。

 今日はあなた、明日は私。

アスプルンドは設計当時、息子を病気でなくしていた。
死からは逃れることができない。
そんな運命を受け入れて生まれたデザインは、
優しさに満ちている。

アスプルンドは、今も息子と共にこの墓地に眠っている。

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礒部建多 13年8月17日放送


LaLaLaTaro
礒部建多

「ぼくの愛は二度と燃えないはずさ」 

忌野清志郎自身の大失恋を歌った
RCサクセションの曲、「お墓」。
曲調はタイトルと裏腹に、軽快なレゲエサウンド。
  
「お墓」という際どいタイトルが理由で
当初、発表が見送られていた。
しかし清志郎は、別のタイトルに変えることはしなかった。
 
あまりに冷たかったお別れが ぼくのすべてを
変えてしまった 変えてしまった 変えてしまった。

伝えたい悲しみを、感じた通りに表現する。
飾らずに、ストレートに。
それが忌野清志郎のスタイルであり
希代のロックンロールスターと愛された理由。

「忌野清志郎」と大きく彫られた高尾霊園のお墓には、
今も多くのファンが訪れ、花を手向けていく。

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奥村広乃 13年8月17日放送


antonychammond
世界最古の墓の花

ミント。
セージ。
ラベンダー。
香りのよい草花が、そこには埋葬されていた。

イスラエル北部カルメル山の洞窟でみつかった、
約1万2000年前の墓地。
中石器時代に栄えた、
ナトゥーフ文化のものだと考えられている。

2013年7月に、
ハイファ大学の考古学者
ダニエル・ナデル氏のチームが発見し、
墓地に花を飾った最古の例として注目されている。

春には何百種類もの花が咲く、カルメル山。
でも香りのある植物は決して多くはない。
ナトゥーフの人々は香りのよい草花を選んで
死者に手向けたいと思ったのだろうか。

1万2000年以上も昔から
人は家族や仲間たちの命を
大切に思っていたことは間違いなさそうだ。

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澁江俊一 13年8月17日放送


Taisyo
テオの墓

偉大な画家ゴッホの墓のすぐ横には
弟のテオが眠っている。
テオはすぐれた審美眼を持つ画商で
兄のゴッホのみならず、
モネやルノワール、ゴーギャン、ドガら
後に名をあげる同時代の新人たちもいち早く評価していた。

二人の愛はどの兄弟より強かった。
あまりにも強すぎてしまったくらいだ。

唯一の理解者テオが
結婚し子どもが生まれると
ゴッホはひどく不安になった。
発作が起こり、奇妙な行動が増え、周囲の人々に疎まれる。

 絵画は狂気に対する避雷針だ。

テオへの手紙にそう書き記し、
とてつもない孤独を、見たこともない絵で表現するゴッホ。
その絵が批評家に理解されないことに苦しむテオ。

ゴッホは、
ピストルでの傷がもとで37歳で息を引き取る。
自殺という説が有力だ。
わずか半年後、テオも33歳で息を引き取る。
「兄さんにお金を送ることは、自分に送ることとおなじなんだ」
そう言って妻を説得し、ゴッホの生活を支えつづけたテオ。

寄り添うように並ぶ二人のお墓。
まるでひとつの命が
眠っているようにも見える。

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礒部建多 13年8月17日放送



イサム・ノグチ

みかげ石を削って創られた美しいアーチ。
丹下健三が設計した、広島の原爆慰霊碑。
その原案は、イサム・ノグチによるものだった。

戦争が終わり、
丹下に原爆慰霊碑のデザインを依頼されたイサム。
アメリカ人の母を持ち、アメリカ国籍のイサムは、
罪の意識に苛まれながら全身全霊でデザインする。

しかし、その案は
ノグチが「原爆を落とした国の人間」
という理由で却下される。

芸術は人種の違いや敵味方を超えて
人の心を安らかにする。

ノグチのその想いを受けて、
丹下が原案を残しながら設計したのが
今、私たちが見る原爆慰霊碑なのだ。

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松岡康 13年8月17日放送



シャー・ジャハーン

墓は時に愛のシンボルとなることがある。

イスラム建築の傑作、タージマハル。
『真珠の涙』とも呼ばれるその美しい建築は、
ムガル帝国5代目のシャー・ジャハーンが
最愛の妃ムムターズ・マハルの死を悲しんで建てた墓だと言われている。

美しさを支えているのは、その完璧なまでのシンメトリー。
門や塔の位置はもちろん、細かい装飾に至るまで
全てが線対称に作られている。
まるで、永遠の愛を表現しているかのように。

そんなタージマハルに、
一カ所だけシンメトリーではないところがある。
マハルの棺の横におかれたシャー・ジャハーンの棺だ。

彼の死後置かれたこの棺によって、
完全なシンメトリーは崩れた。

愛するマハルのすぐ隣に眠るシャージャハーンは、
何を思って、眠っているのだろうか。

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澁江俊一 13年8月17日放送



墓マイラー

歴史上の人物のお墓を巡って
旅をする人たちのことを
墓マイラーと呼ぶらしい。

名付け親は文芸研究家でもある
カジポン・マルコ・残月さん。
自らも世界51カ国を回り
1600人以上のお墓にお参りしている
墓マイラーだ。

今も世界で愛される人気女優のお墓が、
村のはずれに、ささやかにあったり。
ひとつのジャンルを切り開いた人のお墓が、
現地では忘れられ、荒れ果てていたり。

カジポンさんが旅した
世界の芸術家や思想家たちの
お墓を見ていると
不思議な気持ちになる。

多くの人々の中で
今も作品が生きている
彼らにとって、
お墓というのはあくまでも
この世の仮の宿のように見えてくる。
そしてもう一度彼らの作品に
触れてみたくなるのだ。

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阿部広太郎 13年8月11日放送



帰りたくなる話 伊達政宗

仕事の都合で転勤を強いられる。
それは昔の大名たちも同じだった。

天下を統一した豊臣秀吉に、伊達政宗は嘆願する。

「米沢は生れ故郷であるからこの地に置いていただきたい」

しかし願いは聞き入れられず、
政宗は仙台に移ることになった。

のちに徳川の命で越後高田の城を築いた帰り、
故郷米沢で詠んだ歌が残っている。

 故郷は 夢にだにさえ 疎からず 現になどか めぐり来にけん

懐かしむ思いの強さは、
ふたたび離れるつらさにもなったのだ。

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