2013 年 10 月 6 日 のアーカイブ

大友美有紀 13年10月6日放送


のらなのに
金原まさ子(きんばらまさこ) あちら側

金原まさ子、俳人、1911年生まれ、102歳。
49歳のときに「魔がさして」俳句を始める。
4冊の句集を出している。

 俳句で遊んでいるとぞくぞくして
 時間を忘れます。

日に何度も「あちら側」幻想の世界に行ってしまう。
浦島太郎が竜宮城で年をとるのを忘れたように、
うかうかと長生きをしているのかもしれない、という。

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大友美有紀 13年10月6日放送



金原まさ子 あたまの中の蛇

俳句では、目の前のもをよく見て作りなさい、
と言われる。
芭蕉以来、俳人は、旅をし、野に出て俳句を作る。
吟行(ぎんこう)する。

102歳の俳人、金原まさ子は、現実をなぞっていても
なにもはじまらないと思ってしまった。
だから見て、そして、目をつぶって書く。

 吟行の後の句会で、わたしが作った蛇の句を出すと
 「今日は蛇なんかいなかった」と言い出す人がいます。

 はじめから、わたしの頭のなかにしかいない蛇なのに。

彼女は、俳句界の「不良少女」と呼ばれている。

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大友美有紀 13年10月6日放送


ミィ
金原まさ子 A子とB子

明治44年生まれの俳人、金原まさ子は、
良妻賢母になるための女学校に通い、
17歳のときに読んだ谷崎純一郎の「痴人の愛」の
主人公、河合譲治に「なんて不道徳な!」と憤る。
「清く正しく」暮らし、結婚していい母親として、
生きていた。その「わたし」はA子。

しかし、30代で妻としても母としても失格と
宣告されるような体験をする。

 自分で自分の心を蹂躙するような毎日。
 その時のわたしには、避難所が必要になりました。

清く正しく、道徳的で常識的な「わたし」A子に対するB子。
不道徳で非常識な「わたし」。異常者や死体が出てくる本を好んで読む。
不健全な世界で遊んでいると精神が健やかになる。
そんなB子。それは必要な癒しだった。

 A子さんの受け持ちである明るさや健全さは、
 暗くあやしい世界を楽しむためにも必要です。
 ずっと日に当たらないでいると、人間、衰えてしまいますからね。

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大友美有紀 13年10月6日放送



金原まさ子 二行目がない

102歳の俳人、金原まさ子は、
女学校卒業後の進路に「津田塾」を考えていた。
ところが受験が近づいた頃、肺尖カタルにかかってしまう。
進学は断念。
勉強は国語が得意だった。
将来の夢は小説家。
ところがいざ書いてみると二行より先に行かない。

 わたしのアタマには、
 小説のための語彙も物語も
 定着しなかったようです。
 俳句ならかろうじて書ける。
 二行目がないからでしょうか。

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大友美有紀 13年10月6日放送



金原まさ子 ボーイズラブ

102歳、俳句界の不良少女、
金原まさ子は、「戦場のメリークリスマス」を見て
人生が変わった。
男性どうしの愛の美しさを思うことが、
心の大部分を占めるようになってしまった。

70歳を越え、夫を亡くして気持ちが
開放されていたのかもしれない。

映画の舞台は、太平洋の南の島。
絶望と暴力が支配するその島で、
日本人の青年将校と英国人パイロットが、
理解し合えない二人として出逢い互いに密かに魅了される。

 その戦争は、わたしも知っているあの戦争のはずですが、
 それがわたしの生きた時代のことだなんて、
 いつもすっかり忘れています。
 それは、わたしにとってひたすらに美しい幻想譚でした。
 
 ヒトはケモノと菫は菫同士契れ

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大友美有紀 13年10月6日放送


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金原まさ子 気がついたら102歳

金原まさ子は、自分を
何かひとつのことに集中タイプだという。
ずっと前は、子育て。
そのあとの何十年かは、俳句。
さいきんはブログ。
凝り性の一点集中型。
完璧を目指すと苦しくなるとわかったので、
完璧は目指さない。けれど必ずベストを尽くす。

 ベストを尽くさないと楽しくありませんからね。
 (でも人に勝ちたいとは、ちっとも思わない。
  俳句でもなんでも、勝ち負けの問題にしたくありません。
  自己保身、我が身たいせつ。一人でコツコツ。)
 気がついたら102歳。

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大友美有紀 13年10月6日放送



金原まさ子 かまってちゃん

金原まさ子は、無人島に行ったら、俳句はつくらないという。
人に褒められたいから書く。
読んでくれる人がいなかったら、俳句は一文字も書かない。
 
 人にかまわれるのが、大好きです。
 「かまってちゃん」という言い方があるそうですが、
 わたしは、それかもしれません。
 
 バフンウニのまわり言霊がひしめくよ

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大友美有紀 13年10月6日放送



金原まさ子 ほんとうだけどウソ

金原まさ子が2010年に出した第3句集
「遊戯(ゆげ)の家」に
「九十九歳の不良少女」という惹句がついた。
それを機に取材の申し込みが入るようになった。
記者の関心は彼女の年齢にあった。

 しかし、わたしはみなさんが期待するような人格者でも
 カワイイおばあちゃんでもありませんから、
 あまりお役に立たなかったでしょう。

「遊戯の家」の最終章は、
エイズで亡くなった映画監督のデレク・ジャーマンが、
最後の日々を過ごした庭を思って書いた。
それは、記者が期待する99歳のイマジネーションではなかっただろう。
金原自身は年をとればとるほど書くものが自由になるという。

 「ほんとうですけど、ウソなのです」
 「ウソですけど、ほんとうなのです」
 というような俳句のつくりかたをしたいと、
 わたしは思っているのです。

2013年第4句集「カルナヴァル」を出版。
虚空から沸いて出たものが跋扈する「祭」のような句集になった。
すごい102歳だ。

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