佐藤理人 13年10月20日放送
フェルマーの遺産「ワイルズ② アタック開始」
イギリスは冒険家の国だ。
クック、スコット、リビングストン、ヒラリー。
冒険に命をかけて死んだ男たちの血が、
数学者アンドリュー・ワイルズにも流れていた。
断崖絶壁に囲まれた数学史上最高の未踏峰、
「フェルマーの最終定理」。
ワイルズは誰にも内緒で証明を開始する。
数学者のキャリアを溝に捨てる恐怖と闘いながら、
彼は何年間も考えつづけた。
論文も書かず、学会にも出席しない彼のことを、
同僚たちは「ワイルズは終わった」と笑い者にした。
7年目、ようやく光明が訪れた。
不得意な幾何学をかなり駆使したが、自信はあった。
1993年、ワイルズは突然講演会を開き、
満員の聴衆の前で史上最大の難問を解き始めた。
終わりに近づくにつれてシャッターの音が増え、
シャンパンの栓が抜かれた。
いつまでも止まない喝采の中、
ワイルズは静かに証明を終える。
しかし、本当の試練はこれからだった。