佐藤理人 13年11月10日放送
ナディア・コマネチ⑤ 「アメリカ」
ルーマニアに帰るか。
それともアメリカに残るか。
ツアーでニューヨークを訪れた日の夜、
コーチにそう尋ねられ、体操の金メダリスト
ナディア・コマネチは答に詰まった。
1980年代、ルーマニアは酷い飢餓状態にあった。
大統領ニコラエ・チャウシェスクが
国の借金返済のため食料品をすべて輸出していたのだ。
でも、家族を置いて亡命なんてとてもできない。
国に帰ります
彼女はそう答えるのが精一杯だった。
翌朝、コーチ夫妻は姿を消した。
その日からナディアの生活は一変した。
亡命の危険性がある要注意人物として
国から徹底的にマークされた。
6歳から苦楽を共にしたコーチが去った今、
どうすればいいか教えてくれる人は
もう誰もいなかった。