佐藤理人 13年11月10日放送
doublebug
ナディア・コマネチ⑦ 「亡命」
どんな高いジャンプだって恐くなかった。
でも今は目の前にある数mの鉄条網が恐ろしい。
体操の金メダリスト、ナディア・コマネチは
ルーマニアの国境で怯えていた。
背後から国境警備隊に射殺されたらどうしよう。
残した家族が秘密警察に拷問されたらどうしよう。
吐き気をもよおすほどの恐怖と闘いながら、
彼女は6人の仲間とともに暗闇を6時間走り続けた。
しかしようやく辿り着いたハンガリー警察は、
無名の一般人には冷たかった。
君はいいが、残りは強制送還する。
体操には団体競技としての側面がある。
個人の点数はチームに加算されるのだ。
幼い頃から常に「チームプレイヤーであれ」
と教えられてきたナディアは思わず言った。
全員が残れないなら、私も残りません。
ハンガリー警察は全員の亡命を認めた。
人生を賭けた大勝負で、彼女は見事、
10点満点のウルトラCを成功させた。