Phil and Pam
カメラの裏には 藤岡亜弥
写真家・藤岡亜弥。
彼女は20代のある日、旅に出た。
正確には、カメラを片手に、やっと外へ出た。
彼女は俗に言う、ひきこもりだった。
部屋にこもり、犬をかわいがるだけの生活をしていた。
けれどもある日、
彼女をずっと受け入れてくれていた犬がこの世を去る。
それを機に彼女の特異すぎる日常も終わり、
ようやく扉の外へと目を向けたのだった。
部屋を出て、国境を越えて、遠くエストニアの地に降り立つ。
片手にはカメラ。日本とちがう冬。
吐く息に彼女のめがねは曇り、こんなことを思ったという。
世界はぼんやりとうつくしく見えた。
はじめて、孤独の至福を味わった。
となりに誰もいなくても。
あたたかい犬がいなくても。
カメラという機械があれば、
人間は孤独を至福に変えることだってできるのだ。