2013 年 11 月 30 日 のアーカイブ

藤本宗将 13年11月30日放送



インナーワールド アドルフ・クスマウル

人の体内は、いちばん身近な未知の世界。
それを覗き見ることにはじめて成功したのは、
19世紀半ばのドイツの内科医、アドルフ・クスマウル。

人間の内蔵を見るには、手術しか方法がなかった時代。
なんとか切らずに見ることができないかと考えるうち、
クスマウルは口から長い筒を入れて胃の中を覗くことを思いついた。

しかし完成したのは現在の内視鏡とは違い、
まったく曲がらない金属製の筒。

そこでクスマウルが連れてきたのは、中国人の大道芸人。
剣を飲み込む要領でこの筒を飲ませようと考えたのだ。

芸は身を助けるというが、
この芸は医学の進歩を助けてくれた。

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藤本宗将 13年11月30日放送



インナーワールド アドルフ・クスマウル

人間の体の中を見たい。
その願いに光がさしたのは、1895年のこと。
しかもそれは医学ではなく、物理学の成果としてだった。
物理学者ヴィルヘルム・レントゲンが、
物体を通り抜ける奇妙な光を発見したのだ。

レントゲンは、
早速さまざまな写真をX線で撮影した。

そのうち妻の手を写した1枚がいまも残っている。
写真には骨がはっきりと浮かび上がり、
X線を通さない金の指輪だけが黒く映っていた。
これを見た彼女は、
「自分の死体を見た気分だわ!」と叫んだという。

だがX線写真は医学に応用され、
むしろ多くの人々を死から救うことになった。

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藤本宗将 13年11月30日放送



インナーワールド アドルフ・クスマウル

「胃の中を撮影するカメラをつくってほしい」

カメラメーカーの主任技師であった杉浦睦夫のもとに、
そんな奇妙な依頼が舞い込んだ。
依頼主は外科医・宇治達郎。
杉浦を出張先まで追いかけて熱心に説得したが、
多忙な彼からいい返事はもらえなかった。

しかし東京に戻る列車の中で運命は変わる。
その日に大型台風が関東を直撃。
一晩中閉じ込められて話し合ううち、議論が白熱。
ついにふたりは開発を決心する。

そして1950年、世界初の胃カメラが完成した。

異質なものがぶつかって、イノベーションは生まれる。
そのための密室を運命が用意したのかもしれない。

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藤本宗将 13年11月30日放送


robinvanmourik
インナーワールド アドルフ・クスマウル

体の断面を撮影するCTスキャナ。
この医学史上最大級の発明は、
「ビートルズによる最も偉大な遺産」といわれる。

CTの発明者であるゴッドフリー・ハウンズフィールドの勤務先が
EMI、つまりビートルズのレコード会社であり、
その莫大な売上が研究資金をまかなっていたからだ。

何しろハウンズフィールドの研究は長い苦難の連続だった。
X線写真とコンピュータの画像処理を
組み合わせるアイデアを思いついたものの、
医学の知識がないため開発は手探り。
それでも彼は休みなしで連日作業に没頭した。
上司が研究室に鍵をかけ、やっと休暇をとらせたほど。

ビートルズがいなかったらCTは生まれなかった、と人は言う。
だがいくら資金があったとしても、
この努力家のサラリーマンがいなければCTは生まれなかったはずだ。

1979年。彼の地道な研究に対し、
ノーベル生理学・医学賞が贈られている。

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