2013 年 12 月 15 日 のアーカイブ

礒部建多 13年12月15日放送



ラブソングと電話

 “ただ「愛してる」って言う為に電話したんだ。

 ただ「こんなに君を想ってる」って言う為だけに電話したんだ。”

「I just call to say I love you(邦題:心の愛)」は
スティーヴィー・ワンダーの代表曲。
彼はある2人を想いながら、
この曲を書き上げた。

その2人とは、
後の南アフリカ大統領ネルソン・マンデラと、その妻。
当時アパルトヘイト政策に反対し、
反逆罪として投獄されていたマンデラが
妻に電話をかけている様子を思い描いたという。

信念を貫き、逆境に耐える2人をつなぐ、一本の電話。
受話器越しに交わされる愛の言葉は
今も世界中の恋人たちを魅了し続けている。

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松岡康 13年12月15日放送



神様からの電話

ある漫画家のアトリエに国際電話が入った。

受話器の向こうの人物は、
アシスタントにペンと紙と定規を準備させ、
こう言った。

右上から4cm下に直線を引いてください。
そしてその線から、今度は左に5cm引いてください。。。

アシスタントが指示通りにペンを動かすと、
マンガのコマ割が描かれていく。
電話はさらにつづく。

 ブラック・ジャック第10話、
 3ページ目の4番目の背景の模様を、
最初のコマに書き込んでください!

電話の主は、マンガの神様、手塚治虫。

講演に来ていたアメリカから
電話越しで細かい指示を伝えたのだった。
驚くことに、彼の頭の中にはこれから描くストーリーと、
過去に書いたカットがすべて、正確に入っていた。

常人離れした記憶力と、マンガに対する熱意。
そしてなにより、どんな状況でも締め切りを守るプロ意識こそ、
手塚治虫が神様とよばれる所以なのかもしれない。

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澁江俊一 13年12月15日放送



電話嫌いの作家1

日本の作家、夏目漱石と
「トムソーヤーの冒険」で知られる
アメリカの作家、マーク·トウェイン。
2人の共通点は、電話嫌い。

夏目家が電話を引いたのは、
漱石が朝日新聞に「行人」を
連載しはじめた大正元年12月。
加入台数は1000人当りわずか4台の時代だった。

せっかく引いた電話だが、漱石は気に入らない。
「鏡子夫人を呼んで欲しい」と言われると
「何の用だ、人の細君を呼び出して」とどやしつけ、
「モシモシ、夏目さんですか」とかかってきても
「知りませんよ」と怒って切ってしまう。

間違い電話ともなると、さらに大騒動になる。
交換手を呼び出し「なぜまちがったのだ、
理由を言いなさい、おおかた人を邪魔し莫迦にするのだろう」
と、くどくどとやり込める。
挙句の果て、うるさいからと受話器を外してしまう。
家族一同、ほとほと弱ったようである。

この頃、10年ぶりに
激しい神経衰弱に陥っていた漱石にとって
高価で便利な電話も邪魔者でしかなかった。

誰もが電話を持ち歩く現代。
もしも漱石がいたら、
どんな小説を書いただろう。

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奥村広乃 13年12月15日放送



流星群と電話

毎年この時期になると、
双子座流星群が話題にのぼる。

三大流星群のひとつに数えられ、
多い時では、1時間に100個ほどの流星が見える。

天文ショーが世間をにぎわすたび、
せわしなく鳴る電話がある。
国立天文台、広報普及室の電話だ。

天文学者、長沢工(ながさわ こう)の『天文台の電話番』によれば、
流星群出現の時は、問い合わせ電話が特に増え
トイレに立つ暇もないという。

このエッセイが書かれたのは、2001年。
10年以上たち、インターネットが普及したいま。
天文台の電話はどれくらい鳴っているのだろうか。

ただ。
簡単にたくさんの情報が
手に入ってしまうからこそ、
専門家に深い話を聴きたくなる。
そんな人も多そうだ。


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澁江俊一 13年12月15日放送



電話嫌いの作家2

日本の作家、夏目漱石と
「トムソーヤーの冒険」を書いた
アメリカの作家、マーク·トウェイン。
2人の共通点は、電話嫌い。

電話を発明したグラハム・ベルは
トウェインにもぜひと勧めるが、
聞きたくもない音を聞かされ、
話したくもない人と話す、失礼な機械である、
と断られた。

しつこく勧めるベルに嫌気がさし、
トウェインはある文を新聞に発表する。
「ハートフォード市民には今年も全員に
クリスマスカードを贈るが、ベルには絶対贈らない」

数日後、
トウェインが病気で寝ていると、親戚の訃報が届いた。
葬式に出席できず落胆するトウェインのために
ベルは家と教会を電話でつないだ。

葬儀の出席者と心ゆくまで語らい、
電話の便利さを知ったトウェインが
「料金は払わせてほしい」と申し出ると、
ベルは、笑ってこう答えた。

「料金は結構ですから、私にもクリスマスカードをください」

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松岡康 13年12月15日放送



葬儀屋と電話

1889年、
カンザスの葬儀屋アーモン・ストロージャーが、
革命的な発明をする。
ダイヤル式の電話だ。

なぜ葬儀屋の彼に、
このような大発明ができたのか?

当時の電話は、
電話局の交換手を呼び出して、
番号を告げ、人の手で接続してもらうものだった。

ある日ストロージャーは、自分が経営する葬儀屋への
電話注文が少ないことに不信を抱く。
原因を調べると、電話交換手が別の葬儀屋の女房で、
仕事の電話をすべてそちらにつないでいたことが判明。
そこから「人の手を介さない回線交換」を思いついたのだ…

強い意志で
日常に転がっている発明の種を見つけ、
育てることで、偉大な発明が生まれる。
葬儀屋ストロージャーの逸話は、
わたしたちにそう教えてくれる。

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礒部建多 13年12月15日放送



五輪ポスターと電話

堂々と佇む日の丸。
それを支える様に、
金の輝きを放つ五輪マーク。
亀倉雄策がデザインした
1964年東京五輪のポスターだ。

日本のデザインの発展に寄与した功績を認められ、
五輪ポスターのコンペに招かれた亀倉だが
〆切当日、委員会から催促の電話を受けるまで
提出期限を忘れていた。
その電話から、わずか2時間で彼は
あのダイナミックなデザインを仕上げたのだ。

シンプルで力強い、そのポスターは
20点以上の案から満場一致で選ばれた。

もしあの時、
電話に出られなかったら、
この歴史的デザインは、
幻になっていた。

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奥村広乃 13年12月15日放送



電話と不自由

ピンク・レディ『UFO』、
都はるみ『北の宿から』など
名曲の数々を手掛けた作詞家、阿久悠。

愛する人に会えない切なさ、
新しい愛に気が付いた胸のときめき、
愛を失った悲しみなど、
さまざまな愛の形を、言葉で紡いだ彼は
こんなエッセーを残している。

「若者よ、自由を欲するなら、まず電話を手放せ!

僕らは、逢って、語って、別れてから、
その次に逢うまでの時間は、完全な祈りであった。
心変わりの心配も、祈るしかない。それが恋愛であろう。

24時間電話を掛けつづけ、
完全に相手の行動を把握しようとする心に、
恋愛はたぶん芽生えない。

電話を悪役にするつもりはないが、
人間はもっと人間らしさを恋しがり、
人間を主張する必要はあるだろう。」

24時間つながれる。
この安心と便利さは、
自由を犠牲にしているのかもしれない。

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