澁江俊一 13年12月15日放送
電話嫌いの作家1
日本の作家、夏目漱石と
「トムソーヤーの冒険」で知られる
アメリカの作家、マーク·トウェイン。
2人の共通点は、電話嫌い。
夏目家が電話を引いたのは、
漱石が朝日新聞に「行人」を
連載しはじめた大正元年12月。
加入台数は1000人当りわずか4台の時代だった。
せっかく引いた電話だが、漱石は気に入らない。
「鏡子夫人を呼んで欲しい」と言われると
「何の用だ、人の細君を呼び出して」とどやしつけ、
「モシモシ、夏目さんですか」とかかってきても
「知りませんよ」と怒って切ってしまう。
間違い電話ともなると、さらに大騒動になる。
交換手を呼び出し「なぜまちがったのだ、
理由を言いなさい、おおかた人を邪魔し莫迦にするのだろう」
と、くどくどとやり込める。
挙句の果て、うるさいからと受話器を外してしまう。
家族一同、ほとほと弱ったようである。
この頃、10年ぶりに
激しい神経衰弱に陥っていた漱石にとって
高価で便利な電話も邪魔者でしかなかった。
誰もが電話を持ち歩く現代。
もしも漱石がいたら、
どんな小説を書いただろう。