小野麻利江 14年1月19日放送


ゆずか
誕生にまつわる話 大人の誕生

何歳の誕生日をすぎたあたりから、自分は大人になったんだろう。

もう子どもじゃない。もう大人なんだ。
そうはっきりと自覚した「あのとき」は、いつなんだろう。

詩人の長田弘は『深呼吸の必要』という詩集の中で、
その瞬間を、鮮やかに切り取ってみせる。

それはたとえば、自分についての全部のことを、
自分で決めなくてはならなくなったとき。

それはたとえば、歩くことの楽しさを無くしてしまったとき。

それはたとえば、ある日ふと、誰からも、
「遠くへ行ってはいけないよ」と言われなくなったとき。

それはたとえば、これ以上自分が大きくなれないんだと知ったとき。

それはたとえば、自分の人生で、
「こころが痛い」としか言えない痛みを、はじめて知ったとき。

九章からなる散文詩「あのときかもしれない」が見せてくれるのは
とりとめもないこととして片付けられるような、
でも、誰しもが通っている、火花のような瞬間の再体験。

子どもを大人にするのは、大人ではない。
子どもの中から、大人が生まれる。

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