道山智之 14年4月26日放送
紀貫之②
平安時代の歌人、紀貫之には、
こんな歌がある。
影見れば波の底なるひさかたの
空漕ぎわたる我ぞわびしき
海に映る月の光を見ていると
水の底がまるではるかな天空のように思われて
私はひとり空をこぎわたるようなさびしさを感じる
貫之は、言葉の力で、
海底を空に、水面を海底に、かえてみせた。
その逆をゆく歌も詠んだ。
さくら花散りぬる風のなごりには
水なき空に波ぞ立ちける
桜の花が散ってゆく風のなごり
そのとき、花びらの波が立って
空は海にかわった
どちらの歌でも貫之は、
ことばという自分だけのカメラをつかって
一瞬を永遠の風景にかえていた。