2014 年 6 月 のアーカイブ

松岡康 14年6月15日放送

140615-07
keyaki
発車のベル

月曜日の朝。
京急川崎駅のホームには、
東京方面に出勤するサラリーマンたちで
ごった返している。
上りの電車が入ってくる。
そこに、電車接近を知らせるメロディが重なる。
「上を向いて歩こう」。

川崎生まれの坂本にちなんで、
2008年から電車接近メロディに採用されたという。

その優しいメロディは、
憂鬱そうなサラリーマンたちの背中を少しだけ押す。

さあ、明日は月曜日。
出勤の前にすこしだけ、
このメロディを思い出してみては
どうだろうか。

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奥村広乃 14年6月15日放送

140615-08
josemanuelerre
冒険のBGM

太平洋を単独横断。
大阪の青年、ヨットでシスコ湾着。

1962年8月12日、新聞にそんな記事が載った。

海洋冒険家、堀江謙一。
兵庫県西宮市を出港して94日目。
1万キロにおよぶ航海をへて、
彼の乗ったマーメイド号はサンフランシスコに着いた。

パスポートは持っていなかった。
密出国であり、密入国であった。
だが当時のサンフランシスコ市長は、
日本から来た青年を寛大な心で出迎え、
1か月の滞在を許可した。

日本人初の太平洋単独横断の様子は、
手記にまとめられ、
のちに映画化もされ大ヒットとなった。
そのタイトルは『太平洋ひとりぼっち』。

堀江氏は、海の上で心細かったとき
「上を向いて歩こう」をうたったという。

歌は人を勇気づける。
これからの冒険家は、
どんな歌を歌うのだろうか。

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森由里佳 14年6月14日放送

140614-01
josemanuelerre
雨に想う① シェルブールの雨傘

カトリーヌ・ドヌーブがヒロインを演じた映画
『シェルブールの雨傘』。

彼女には将来を誓い合う恋人がいた。
しかし、戦争によってふたりは引き裂かれる。

ラストシーンで再会するふたり。
だが、胸の内を言葉にすることができない。
互いに別の人生を歩み始め、家庭もあった。

別れ際、カトリーヌ・ドヌーヴは
かつての恋人にこう問いかけ、静かに立ち去る。

あなたは、幸せ?

そのひと言にどれほど多くの感情が込められているか。
世界中の女性が思いを巡らせ、涙を流した。

『シェルブールの雨傘』。
オープニングで降り始める雨は、
ラストシーンでは雪に変わる。

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森由里佳 14年6月14日放送

140614-02
steve lorillere
雨に想う② レ・ミゼラブル

1985年にロンドンで上演されて以来、
世界中で愛され続けるミュージカル『レ・ミゼラブル』。

劇中、叶わぬ恋が描かれる場面がある。

市民革命のさなか、
少女エポニーヌは
ひそかに想いを寄せていた青年マリウスをかばい、
銃弾に倒れる。

静かに雨が降る中、
死の淵で彼女はこう歌う。

 あなたを連れてきてくれたこの雨は、天の恵みだわ。

エポニーヌは始めからわかっていた。
これが叶わぬ恋であることを。
それでも彼女はやすらかに目を閉じる。
マリウスの腕に、初めて包まれながら。

少女の頬をつたうしずくは、涙か、雨か。

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蛭田瑞穂 14年6月14日放送

140614-03
hidden side
雨に想う③ 川端康成

川端康成の「掌の小説」のなかに
『雨傘』という一編がある。

父親の転任のため離ればなれになる少年と少女。
雨の中ふたりは写真館へ行き、別れの写真を撮る。

要約すれば、それだけの話である。しかし、

写真屋を出ようとして、少年は雨傘を捜した。
ふと見ると、先きに出た少女がその傘を持って、
表に立っていた。少年に見られてはじめて、
少女は自分が少年の傘を持って出たことに気がついた。
そして少女は驚いた。なにごころないしぐさのうちに、
彼女が彼のものだと感じていることを現わしたではないか。

ふたりの距離が縮まったことを物語る一本の傘。
川端康成は男女の機微をおそろしいほど見事に描く。

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飯國なつき 14年6月14日放送

140614-04

雨に想う④ 宮沢賢治

宮沢賢治に「永訣の朝」という詩がある。
最愛の妹との別れをうたった詩だ。

病の床に伏す妹。
外はみぞれまじりの雨が降っている。
激しい熱と喉の渇きに、妹は賢治に
「あめゆじゅとてちてけんじゃ」、
「雨と雪をとってきてほしい」とせがむ。

 ああとし子
 死ぬといういまごろになって
 わたくしをいっしょうあかるくするために
 こんなさっぱりした雪のひとわんを
 おまへはわたくしにたのんだのだ

死にゆく者を前にして、人は無力である。
賢治は妹の頼みを兄に対するやさしさと受け取った。

 あめゆじゅとてちてけんじゃ

「永訣の朝」の中で繰り返されるこの言葉。
その響きはあまりに哀しく、あたたかい。

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熊埜御堂由香 14年6月8日放送

140608-01
M6 Panda
家の話 いしいしんじの町家

幻想的な味わいの作品を発表する作家、
いしいしんじ。

数年前から、京都の
古い町家に住んでいる。

彼にとって家は仕事場。
書いているとふとこう思うという。

 家というよりも、「不思議なトンネル」
 の中いるような感覚になる。

家の中でも、遠くにいける。
それは、町家の魔法かもしれない。

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熊埜御堂由香 14年6月8日放送

140608-02
Kemon01
家の話 ドリス・デュークのシャングリラ

ドリス・デューク。
1925年、12歳のときに父を亡くし、
膨大な遺産で、世界一裕福な女の子といわれた。

彼女の伝記にこんな一節がある。


日記を書くように、ドリスは家を建てた。

世界中に6つの家をたて、
自家用ジェットで世界中を飛び回った。
そんな彼女が一番手をかけた家がハワイにある。
イスラム美術を集め、50年かけて内装をしあげていった。
カハラ地区にある、その邸宅はシャングリラと呼ばれる。

2度の離婚に、子どもの死。
最後まで、家族をもたなかったドリスにとって、
家とは、生活の場ではなく、
夢を見る場所だったのかもしれない。

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茂木彩海 14年6月8日放送

140608-031

家のはなし 坂口恭平の家

図面も引けなければ、ろくな家を建てたこともない。
建築家、坂口恭平。

早稲田大学理工学部で建築家を志し、勉強に励む一方で
土地を買って所有し、莫大な金額を払って家を建てる
という日本の建築システムに疑問を感じていた。

そんな折、隅田川の河川敷で
鈴木さんという路上生活者との出会いを果たす。

鈴木さんの家をのぞかせてもらうと
ざっと3畳はありそうな部屋に
車のバッテリーを改造して電気を通し、
拾ってきた冷蔵庫や洗濯機を動かしている。

そこには大都会、東京の中で、確かに自分の手で建てた家が存在していた。

坂口は言う。

 
エコノミクスの語源は、「住まい」という意味の「オイコス」
 と「あり方」という意味の「ノモス」である。
 つまり、僕たちは経済をどうしていくか考えるときには必ず
 家とはなにかを考えなくてはならない。

現代社会で考える、効率的な家とは何か。
坂口が考えたのは、予算3万円の移動できる家、モバイルハウス。

家づくりの常識を変えた男はいま、
生き方の常識も同時に変えようとしている。

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茂木彩海 14年6月8日放送

140608-04
ミルちょ
家のはなし 隈研吾の家

世界的な建築家、隈研吾のデビュー作は
伊豆の別荘だった。

太平洋が見渡せるすばらしいロケーションにありながら
竹とトタン板を組み合わせた外観に、段ボールでつくった茶室。
工業的なものを使うことで、別荘特有のメルヘンなイメージを変えた。

 
哲学のない建築は人の心を動かさない。
 僕は図面を書くときは、
 手紙だと思って書けと言ってるんです。

彼からの、家のかたちをしたメッセージに、
世界はこれからも、何度となく驚かされるのだろう。

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