道山智之 14年7月12日放送

140712-021

北原白秋 2

詩人、北原白秋。
30代の彼は、実家の破産で困窮していた。
葛飾区ののどかな村に居を構え、
つつましく暮らす彼の庭には、
毎日のように村の子どもたちが遊びにきた。

ある朝、妻がたたんだ蚊帳の中から、
蛍が出てくる。
それを庭の蓮の葉にとまらせていると、
いつものように遊びにくる子どもたち。

ふと思いついた白秋は、
ひとりの子どもの手のひらに
絵を描いてやった。
喜びの声を上げる子どもたち。
みんなの手や指に、金魚や花や、すずめの絵を描いた。

子どもたちが帰った後、
妻が「私にも描いてください」と言う。
彼は妻の小指の爪に、小さな蛍を描いてあげた。

お金はなくても、
村の子どもたちや妻との
無邪気でささやかな心のやりとり。

のちに、今も歌いつがれる
数々の童謡を書いてゆくことになる国民詩人の心のありようは、
このころの生活の中に生まれた。

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