三島邦彦 14年8月31日放送
ぜっとん♪
あの人の夏 阿久悠
「怪物」と呼ばれたヒットメーカー、阿久悠。
作詞家としてこれ以上ない多忙を極める中でも、
毎年夏の15日間は特別な仕事のために空けられていた。
その仕事は、夏の甲子園を見て、一日に一篇の詩を書くこと。
大会期間中の阿久は、
一日四試合、片時もテレビの前を動かなかった。
画面から目を離さずに食べられるよう、食事はいつもどんぶり飯。
グラウンドの球児たちにも負けない気迫で一球も目をそらすことなく、
自己流のスコアブックに色鉛筆で結果や印象を綴っていく。
そして感じたドラマに対し、一回戦で敗退したチームにも、
優勝したチームにも、惜しみない称賛を送り続けた。
1979年から2006年まで足かけ27年、
その間に生まれた詩は、360篇を超える。
これは、その中の一節。
甲子園は去る人の闘いで
だから
熱狂の底に感傷がある
大物も去る 普通も去る
敗者も去る 勝者も去る
たとえ 優勝しても
終る人 去る人に変りはない