道山智之 14年10月26日放送
濱田廣介 3
童話「泣いた赤おに」の作者、
濱田廣介。
1930年頃、廣介は高野山に参拝したときに、
たまたま「宝物土用干し(たからものどようぼし)」という機会に恵まれ、
ある木彫りの像に出会う。
彼はそのときのことをつづっている。
ある木彫(もくちょう)がわたくしの心をしっかととらえました。(中略)
ひきしまりのある姿態には力があふれ、
まだ年若く、かしこそうな顔つき(中略)
それは鎌倉時代の運慶作の国宝、
八大童子の中のひとり、恵喜童子(えきどうじ)であった。
知恵をめぐらし、その知恵をひとに与えて喜びとする童子(中略)
このような童子をかりて、創作の童話の中に
新しく日本の鬼を生かして書いてみたいと、
ひそかに思い立ちました。(中略)
これまでの鬼に対する考え方を切りかえるという、
いわば一つの革新が果たされなくてはなりません。
赤おにの原点は、赤い仏だった。
それから2、3年後の1933年、
「泣いた赤おに」は「おにのさうだん」という名前で世に発表された。
そこには、まったくあたらしいかたちの、
人間的な魅力あふれる鬼がいた。
この童子像は、六本木・サントリー美術館「高野山の名宝」展で
12月7日まで見ることができる。
運慶と廣介、ふたつの魂がぶつかった瞬間を、体験してみる価値はあるだろう。