2014 年 11 月 2 日 のアーカイブ

大友美有紀 14年11月2日放送

141101-01
Minneapolis Institute of Arts
「父の言葉」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

日本では、まだ数少ない「絵画修復」という仕事。
岩井希久子は36年前に修復の仕事を始めた。
この道を選ぶきっかけとなったのは、
父の言葉だった。

 世の中に絵描きは掃いて捨てるほどいるけれど、
 修復家はいない。

当時、岩井の父は、熊本県立美術館の建設準備室の室長だった。
ヨーロッパの名だたる美術館を視察し、本物の芸術に触れ、
職人が芸術を支えていると実感していた。
絵描きを目指していた希久子は、画家との結婚を機に、
修復家になることを決意した。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-02

「ゴッホ」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

絵画修復家・岩井希久子がゴッホの「ひまわり」の
修復をしたのは、2005年のこと。
1987年のバブル期に日本に来てから18年の時が経っていた。
展示ケースの中にあっても目に見えないホコリは、
絵に少しずつ溜まっていく。
筆致が強く絵の具のエッジが突起のようになっている、ゴッホの絵。
クリーニングの作業は、フラットな絵の3倍かかった。
表面のニスも変色していたので、除去した。

 汚れやニスを落とし、修復が終わると
 オリジナルのきれいな黄色が鮮やかに
 浮かび上がってきました。
 まるでお風呂上がりのよう。
 絵全体の明度が上がり、明るくやわらかい黄色が
 甦ったのです。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-03

「モネ」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

絵画修復家・岩井は、展覧会の際、
海外からやってくる絵の状態をチェックする、
という仕事も担当する。
バブル期に世界中から集まってくる絵をたくさん見る中で、
状態の悪い絵が多いことに心を痛めた。
絵は酸化によって劣化する。
そして思いついたのが「低酸素密閉」。
お菓子の袋に入っている脱酸素材がヒントになった。
地中美術館に展示されているモネの「睡蓮」は、
作画当時のままのピュアな状態で残っている貴重な作品。
「低酸素密閉」のアイデアをもとにした隔離密閉を行っている。

 私は、いかに保存していくかが最も重要だと考えています。
 状態が悪くなったら、修復してそれで終わり、
 というのではなくて、病気にならないほうがいいに決まっています。

地中美術館の「睡蓮」は、
モネが描いたままの絵の具の質感とつや、
絵の具の突起がそのまま残っていた。
ニスもかかっていない。
この絵が病気にならないように、保存は続いている。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-041
torbakhopper HE DEAD
「ピカソ」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

世界に現存する名画のうち、およそ8割は過去の修復によって
オリジナルの状態をとどめていないという。
ピカソの「ギターのある静物」は、
1960、70年代に主流だった「裏打ち」という手法で修復され、
画面がボコボコに波打っていた。
絵画修復家・岩井は、この裏打ちをはがすことを決意した。

 絵にとって、平面性はものすごく重要です。
 画家はピンと張られたキャンパスの中に世界を
 つくっているのですから。

 
画面がひずんでしまったり、平らでなくなってしまうと、
作家の意図したことが伝わらなくなる。
岩井は、それを危機的状況、という。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-05

「フェルメール」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

絵画修復の技術は、年々、進歩している。
かつては、修復したらニスをかけるのが常識となっていた。
しかしニスをかけると質感が変わってしまい、
色の重なりが見えなくなる。
絵画修復家・岩井希久子は、
いい修復は作家本来の表現を変えないことだという。
フェルメールの「手紙を読む青衣の女」は、
黄変したニスを取り除き、
欠損していたところに目立たない補彩を行っただけの控えめな修復。
みごとなラピスラズリが浮かび上がり、
画家が表現したブルーが甦った。

 修復を手がけた、アムステルダム国立美術館の
 イへ・フェルスライプさんは、
 すごく穏やかで謙虚な方。
 だからこのような控えめないい修復ができたと思う。

 
「手紙を読む青衣の女」は2011年から12年にかけて
日本国内を巡回した。
展覧会では修復方法の説明パネルを掲出していたが、
塗り直したのですか?と会場で聞かれた。
「修復」についての認知が足りないと、岩井は痛感した。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-06
Tom Simpson
「ディズニー」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

絵画修復家・岩井希久子は、
アニメーションのセル画の修復も手がけた。
2006年「ディズニー・アート展」でのこと。
日本で見つかったセル画は、
段ボールで保管され、カビだらけ。
ホコリもひどくて、見るも無惨な姿だった。
セルが下に重ねてある背景画に貼りついてしまっていたり、
絵の具がはがれてしまっていたり。

  2枚のセル画の間に
  はがれた絵の具の破片が全部たまっていました。
  数ミリの小さい破片をもとの位置にもどすのに、
  8時間ぐらい夜通し作業しました。

  
修復作業は、徹夜の連続だった。
けれども岩井は絵の魅力に惹きつけられて
飽きることなく仕事ができた。
こどもの頃に憧れていた作品を修復することができたのだから。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-07
davidgalestudios
「修復という仕事」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

修復部門がある日本の美術館は、数少ない。
絵画修復家・岩井希久子は、
修復センターのビジョンを持っている。

 ガラス張りのオープンな環境で
 修復作業を常時行い、
 見学してもらえる場所。
 インターンシップの人や
 海外からの研修生も受け入れて、
 実際に作業を手伝ってもらいながら、
 技術を教え、就職もできる場所。

 
それは、理念も含めて修復家を育てる場所だ。

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大友美有紀 14年11月2日放送

141101-08
dugspr — Home for Good
「瓦礫の中から見つかった絵」絵画修復家・岩井希久子(いわいきくこ)

2011年秋、絵画修復家・岩井希久子は、
忘れられない絵との出会いがあった。
小川正明という作家の銅版画。
福島の旅館「朝日館」に飾られていた作品で、
津波の被害にあい、瓦礫のなかから1点だけみつかったという。
 
 それは、泥だらけのまま展示してあり、
 何かを悲痛に訴えかけてくるような絵でした。
 そして直感的に、このまま残したほうがいいと
 感じたのです。

きれいに汚れを落として保存する方法もあったが、
作家も関係者も現状を残したいのではないかと感じた。
悲惨な体験や辛い思いがあっても、
その背景には人の温かさだったり、
ヒューマニズムが潜んでいる。
そういうこともふくめて、辛く苦しい体験は、
伝えていかないといけない。
また、その悲惨な出来事が二度と
起こらないようにするためにも。
岩井のはそう思ったのだ。

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