名前のはなし 忘れられた日本人
民俗学者、宮本常一(みやもとつねいち)。
1930年代から1981年に亡くなるまで、
日本全国の小さな村々を、歩いてきた。
その距離は地球4周分ともいわれる。
宮本を突き動かしたのは、民俗学とは、庶民の生きた生活を
とらえることにあるという信念だった。
知らない村に出向いては、農作業を手伝い、村の寄り合いに顔をだした。
立ち話をしながら、字の書けない古老の話をきき、その言葉を書き留めた。
橋の下で暮らす牛飼いの色恋の話、
村から村へ放浪しながら生きてきた農民の話。
その内容の面白さは、宮本の創作なのではないかと
疑いがかけられたほどだった。
民俗学の本流ではないと冷遇された時期も、
自分は無名の伝承者でかまわない、そう思い歩き続けた。
宮本が脚光をあびるきっかけになった
著書にはこんなタイトルがつけられている。
「忘れられた日本人」
今でも読みつがれるその名著は、
名もなき人々の足跡に、
忘れ去られない名前を刻んだ。