2015 年 4 月 12 日 のアーカイブ

飯國なつき 15年4月12日放送

150412-01
小麦
花とことば① 孟浩然

春眠暁を覚えず。

ぽかぽか暖かい春の日差しに、
つい口にしたくなるこのフレーズ。
詠み人は、唐の時代の詩人、孟浩然。

春眠不覚暁(春眠暁を覚えず)
処処聞啼鳥(処処に啼鳥を聞く)
夜来風雨声(夜来風雨の声)
花落知多少(花落つること知んぬ多少ぞ)

 春の心地よい眠りで明け方が来たのがわからない。
 あちこちで鳥が鳴くのが聞こえる。
 夕べは雨や風の音が聞こえたが、
 どれだけの花が散ったのかわからない。

のんきに春を楽しむ心は、
1000年以上前から変わらない。

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飯國なつき 15年4月12日放送

150412-02
TANAKA Juuyoh
花とことば② ターシャ・テューダー

絵本作家、ターシャ・テューダー。

バーモント州の山奥で、およそ30万坪の広大な庭をつくり、
一日の大半を草花の世話にあてて暮らしていた。

 家事をしている時、あるいは納屋で仕事をしている時、
 これまでの過ちや失敗を思い出す時があります。
 そんな時は、考えるのを急いでやめて、
 スイレンの花を思い浮かべるの。
 スイレンはいつも、沈んだ気持ちを明るくしてくれます。
 

自分の気持ちを明るくするものが、
庭中にあふれかえっている。
そんな暮らしも、確かに素敵ですね。

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飯國なつき 15年4月12日放送

150412-03
aes256
花とことば③ 山村暮鳥

山村暮鳥の詩、「風景」は、
「いちめんのなのはな」
という一節が冒頭から繰り返される。

詩人は風景を描写しない。
見たままを言葉にするだけで、
聞き手の心を、菜の花畑に連れていく。 

本能的な表現をする暮鳥のありようは、
純粋な子どもの心、と評されることもある。 
 
 

 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな 

 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな
 いちめんのなのはな

 いちめんのなのはな
 かすかなるむぎぶえ
 いちめんのなのはな

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森由里佳 15年4月12日放送

150412-04
KYR
花とことば④ 日本と椿

花言葉は、世界共通ではない。
国ごとに、ニュアンスや意味が変わってくる。

はからずも、お国柄がよく表れた花がある。

端正な咲き姿から、
日本のバラともいわれる椿。

「木」に「春」と書いてツバキと読むその花は、
まさしく春の季語としても古くから親しまれている。

そんな椿の西洋での花言葉は、
「敬愛」「完全」「完璧」。

いっぽう、日本では、
「控え目な優しさ」「誇り」。

香り高い花が多く咲く春に、
つよい香りを放つことなく、静かに咲く椿。
きちんと整列したその花弁は、幾何学美すら感じさせる。

日本のこころは、
この地に咲く花々にも根付いているのかもしれない。

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森由里佳 15年4月12日放送

150412-05
22key
花とことば⑤ うたと桜

 散る桜 残る桜も 散る桜

 ねがはくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ

和歌や俳句など、桜を謡った古いうたには、
さびしさや切なさを募らせたものが多い。

しかし現在では、桜といえば、
明るいうたが多くなってきた。

美しい花が散ることへの嘆き、いつくしみから、
つぼみが花ひらくことへの喜び、あこがれへ。

あたたかい春に
やっと咲いては散りゆくものだった桜は、
きびしい冬を超えて
みずみずしく咲き誇るものになった。

うたは、時代を謡うのだ。
だから、もし暗い夜が来ても、大丈夫。
いまの日本には、花あかりが灯っている。

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森由里佳 15年4月12日放送

150412-06

花とことば⑥ 酒と牡丹

土佐の銘酒「司牡丹」。
この酒が牡丹の名を冠した理由は、
土佐出身の維新の志士、田中光顕が寄せた
賛辞の言葉にある。
 
「天下の芳醇なり、今後は酒の王たるべし」
 
幾重にもつらなる花弁をひろげ、
堂々と鎮座する姿から、
花の王という異名も持つ牡丹。
その名は王と呼ぶべき酒にふさわしい名だった。

華やかな美しさだけでなく、
強く、堂々とした佇まいも兼ね備える牡丹の花。

まもなく、春牡丹は見頃を迎える。

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蛭田瑞穂 15年4月12日放送

150412-07
t.shigesa
花とことば⑦ 井伏鱒二

唐の時代の詩人、于武陵の「歓酒」は
別れの悲しみを詠った詩。

その一節、
「花発(ひら)けば風雨多し 人生別離足る」を
作家の井伏鱒二はこう訳した。

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ
 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

春は出会いと同時に別れの季節でもある。
桜が少しだけ物悲しいのはそのせいかもしれない。

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蛭田瑞穂 15年4月12日放送

150412-08
aoryouma
花とことば⑧ 梶井基次郎

 櫻の樹の下には屍体が埋まっている!

これは梶井基次郎の短編小説
『櫻の樹の下には』の冒頭の一節。

主人公の語り手にとって、
爛漫と咲き乱れる桜はあまりにも美しすぎる。
その美しさが彼を不安にさせる。

そこで彼は想像してみる。
すべての桜の木の下に屍体が埋まっていると。

腐乱した屍体を養分にして桜は美しい花を咲かせる。
そう思うことで彼は心の均衡を取り戻す。

春。
いっせいに咲き、いっせいに散る桜に、
日本人は死のイメージさえ重ねる。
日本人にとって桜ほどとくべつな花はない。

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