澁江俊一 15年5月31日放送
伊兵衛の口癖
今日は写真家、木村伊兵衛の命日。
ライカを手にして日本を旅し、
普通の人々の日常を鮮やかに切りとる。
スナップ写真の達人だった木村伊兵衛。
彼の口癖は、「乙なもんですね」。
しかし甲乙つけがたい、とも言われるように
「乙」とは決して最上のもの、ではない。
最上ではないものを、よしとする
それが木村伊兵衛の写真の凄さだ。
同じくライカを操り、スナップを得意とし
伊兵衛ともよく比較されたフランスの写真家、
アンリ・カルティエ・ブレッソンは
「決定的瞬間」の言葉で知られるように
1ミリも動かしようのない完璧な構図を目指した。
伊兵衛を敬愛する写真家、荒木経惟は
伊兵衛の写真を、こう語る。
木村伊兵衛さんの写真は、
この瞬間が最高だとかいうのではなくて、
時間の流れっていうか、
動いてる感じがある。
ブレッソンが「決定的瞬間」って言ってるけど、
木村さんには「決定的瞬間」なんてないんだよ。
そこが魅力的なんだよ。
完璧でないものにも、美しさがある。
木村伊兵衛の乙な写真術は
日本人ならではの美、とでも、言ってみたくなる。