母を生きた人 アガサ・クリスティ
20世紀を代表する推理作家、アガサ・クリスティ。
彼女が生み出した数多くの小説は世界中で翻訳され、
今もなお読み継がれている。
彼女は晩年に自伝も執筆した。それを読むと、
巧みに構成された小説の印象とは異なり、
母として、妻としての愛情溢れる日々が生き生きと綴られている。
特に印象的なのは娘・ロザリンドとのエピソード。
アガサは幼い娘を寝かしつけるために、
くまのぬいぐるみの大冒険を創作して毎晩話してあげたそうだ。
希代の女流作家のストーリーを独り占めできるなんて、うらやましい限り。
娘が11歳になった頃、アガサは考古学者のマックス・マローワンと出会う。
マックスが14歳も年下だったこともあり、再婚するかどうか悩んでいたアガサ。
当時、娘に相談した時の会話が自伝にも登場する。
「お母さんがまた結婚しても、あなたはかまわない?」
「いつかそうすると思ってたわ」
そう答えたロザリンドは、アガサによれば
「あらゆる可能性をいつも考慮している人」のようだったという。
子供なのに名探偵さながらの冷静さだ。
そんな娘に背中を押されて、アガサは再婚を決意。
二度目の結婚生活はとてもうまくいき、
85歳で亡くなるまで家族に囲まれて幸せに暮らしたそうだ。
そういえば、彼女の自伝の冒頭にはこんな一節がある。
人生の中で出会う最も幸福なことは、
幸せな子供時代を持つことである。