2015 年 7 月 のアーカイブ

伊藤健一郎 15年7月25日放送

150725-03
plancas67
背筋を凍らせる人 楳図かずお

 面白いものを作りたかったら、人間の本能を突けばいい。

これは、楳図かずおの言葉だ。
ホラー漫画の名手として知られる彼は、
あるときこんな胸中を打ち明けた。

僕はこれまで、誰も描かないような
おどろおどろしい作品をたくさん描いてきました。
でもそれは、怖い話をつくりたかったからではなく、
「恐怖」という最も本質的な感情を通して人間を描きたかったからです。
「美しい」という感情もそう。
それらを抜きに、人間を描くことはできません。

天才と称されることもあれば、狂人と揶揄されることもある楳図。
美しさに怖いほどの執着をみせる人間を描いた
『洗礼』という作品には、こんな問いかけがある。

狂った世界の中にただ一人狂わない者がいたとしたら
はたしてどちらが狂っていると思うだろう?

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伊藤健一郎 15年7月25日放送

150725-04
Adam Polselli
背筋を凍らせる人 スタンリー・キューブリック

世界を恐怖で震撼させた映画『シャイニング』。
作品を象徴するのは、ジャック・ニコルソンの狂気に満ち満ちた表情だ。

ジャケットにも採用されたそのシーンは、わずか2秒。
しかし、撮影は2週間におよび、190以上のテイクを重ねた。

監督を務めたのは、スタンリー・キューブリック。
完璧主義と言えば聞こえはいいが、彼の制作意欲こそ狂気そのものだった。

映画に狂った彼は言う。

 映画を作っているときは、ときたま幸せだ。
 映画を作っていないときは、間違いなく不幸せだ。

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蛭田瑞穂 15年7月19日放送

150719-01

こども① 宮﨑駿

宮崎駿が初めて読んだ活字の本は
アンデルセンの『人魚姫』だったと言う。
以来宮崎は多くの児童文学に親しんできた。

大学時代は児童文学研究会に所属し、
アニメーションスタジオに入社してからも
会社の本棚にある少年文庫を
片っ端から読みふけった。

児童文学の魅力を宮崎駿はこう述べる。

 児童文学というのは(中略)
 「生まれてきてよかったんだ」というものなんです。
 生きててよかったんだ、生きていいんだ、というふうなことを、
 子どもたちにエールとして送ろうというのが、
 児童文学が生まれた基本的なきっかけだと思います。

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蛭田瑞穂 15年7月19日放送

150719-02

こども② 谷崎潤一郎

谷崎潤一郎は
自分の生い立ちをできる限り詳細に綴ってみようと、
70歳で随筆集『幼少時代』を執筆した。

いちばん古い記憶のこと。父と母のこと。
生まれ育った街のこと。小学校の恩師のこと。
古い記憶を総動員して幼い日のことを振り返る谷崎。
そしてあとがきでこう述べる。

 現在自分が持っているものの大部分が、
 案外幼年時代に既に悉く芽生えていたのであって、
 青年時代以後においてほんとうに身についたものは、
 そんなに沢山はないような気がするのである。

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蛭田瑞穂 15年7月19日放送

150719-03
Vintage Japan-esque
こども③ 茨木のり子

茨木のり子の詩「こどもたち」。
詩の中で茨木は、小さなこどもの見るものは常に断片であるが、
青春期になると突然それまでのすべての記憶をつなぎはじめる、
とこどもたちの記憶について洞察する。

そして茨木のり子は詩をこう結ぶ。

 その時に 父や母 教師や祖国などが
 ウミヘビや毒草 こわれた甕 ゆがんだ顔のイメージで
 ちいさくかたどられるとしたら
 それはやはり哀しいことではないのか

 
 おとなたちにとって
 ゆめゆめ油断のならないのは
 なによりもまず まわりを走るこどもたち
 今はお菓子ばかりをねらいにかかっている
 この栗鼠どもなのである

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森由里佳 15年7月19日放送

150719-04

こども④ ボーイスカウトとこどもの国

世界中のボーイスカウトに共通する、
三指の礼。
 
第二次大戦中、
傷ついた米兵と、彼を見つけた日本兵との間に生まれた、
こんなエピソードがある。
 
君を刺そうとした時、君はぼくに三指の礼をした。
ぼくもボーイスカウトだった。
ボーイスカウトは兄弟だ。君もぼくも兄弟だ。
それに戦闘力を失ったものを殺すことは許されない。
傷には包帯をしておいたよ。グッドラック。
 
スカウト精神の結晶ともいえる
このエピソードの記念碑がたてられたのは、
横浜市にある「こどもの国」。
 
戦時中の美談が刻まれた「こどもの国」は、当時、
旧日本軍最大の弾薬製造貯蔵施設だったという。

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森由里佳 15年7月19日放送

150719-05
qooh
こども⑤ レオ・レオニと「スイミー」

小さな黒い魚、スイミーは、
大きな魚を恐れる、赤い魚たちにこう言った。
 
「みんないっしょにおよぐんだ。海でいちばん大きな魚のふりをして。」
(中略)
みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき、
スイミーは言った。
「ぼくが、目になろう。」
朝のつめたい水の中を、ひるのかがやく光の中を、
みんなはおよぎ、大きな魚をおい出した。
 
レオ・レオニの絵本「スイミー」。
 
力をあわせて勇気を出せば、どんなことだってできる。
 
この絵本から、そんなことを感じた子供たちは多いだろう。
 
しかし、実はこの作品には、
もうひとつのメッセージが込められている。
それは、
 
「ぼくが、目になろう。」
 
芸術家として、周りの人に見えないものを見ようとしたレオと、
小さなスイミーの姿が、ゆらりと重なる。

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森由里佳 15年7月19日放送

150719-06
r.nial.bradshaw
こども⑥ 「はろるどとまほうのくれよん」

「あるばん、ハロルドはふっとつきよのさんぽがしたくなった」
 
クロケット・ジョンソンの絵本
「はろるどとまほうのくれよん」は、こうしてはじまる。
 
描いたものは何でも本物になるという、
むらさき色のまほうのくれよん。
 
そのくれよんを拾ったはろるどは、
白い壁にさまざまなものを描いて、大冒険をはじめる。
自分で描いた道を通り、ふねで海を渡り、
おなかがすけばパイを描いて食べもした。
 
まほうのくれよんと想像力を使って、
さまざまなピンチを乗り越えていくはろるどの姿に、
世界中のこどもたちが夢中になった。
 
はろるどがつくりだした、
めくるめくむらさき色の世界は、
こどもたちの想像力をカラフルに色づかせたに違いない。

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飯國なつき 15年7月19日放送

150719-07
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こども⑦ 「こそあどの森の物語」

児童作家・岡田淳の代表作の一つである
「こそあどの森の物語」。
 
主人公は、森の中に住んでいる少年「スキッパー」。
内気であまり人を関わりたがらないスキッパーは、 
子供向け小説の主人公としてちょっと異色な存在だ。
 
岡田淳は、スキッパーについてこう語っている。
 
実は、できるだけスキッパーの成長には
ブレーキをかけたいなと思っているんです。(中略)
「自分の世界も大切にしていていいんだよ、
それはとっても素晴らしいことなんだよ…」というのもぼくは思うんです。
 
小学校の図工の先生を務めていた38年間、
いろんな子供たちと触れ合ってきた岡田淳。
 
だからこそ、彼の本には、
物語として「作られた」わけではない、
子供時代のリアルな空気が詰まっている。

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飯國なつき 15年7月19日放送

150719-08
Sergiu Bacioiu
こども⑧ 「夏の庭」

「死体って重い。」
6年生の山下は、おばあさんの葬儀をそう語った。
 
湯本香樹実の小説、「夏の庭」の1シーンだ。
 
登場人物である、僕、山下、河辺の3人組は、
その話をきっかけに「死んだ人が見てみたい」と考えはじめる。
死んだらいったいどうなるんだろう?
興味と恐怖をないまぜに、
3人は、近所で「今にも死にそう」と噂されている
おじいさんの死ぬ瞬間を見ようとおじいさんを見張ることにした。
 
おじいさんに皮肉を言われたり
いつのまにか仲良くなったりしながら、
3人は少しずつ成長してゆく。
 
大人になると、なんとなくわかったような気になってしまう「死」。
 
けれど、湯本香樹実の描き出すこどもたちは、
「死」について、きらきらと純粋に考え、ぶつかってゆく。

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