Dick Thomas Johnson
広辞苑を愛した作家
幼い頃、国文学者の父の書斎に行っては
広辞苑を取り出し、床に座ってめくっていた。
まだ読めなくても、その分厚さや重み、
ひんやりした紙の手触りや、インクの匂いを楽しんでいた。
そう語るのは、作家の三浦しをん。
辞書の編集という大仕事を丹念に取材した
小説「舟を編む」は本屋大賞を受賞し、映画にもなった。
取材中、三浦は
とある広辞苑の編集者に趣味を聞いた。
彼は、こう答えた。
「駅のホームにあふれた人が
エスカレーターに整列して
吸い込まれていくのを見るのが好きです」
こんなにも愛すべき人が、
正しい日本語を決めている。
感動した三浦はその言葉を、
主人公の趣味にそのまま採用した。