大友美有紀 15年11月7日放送
「古川緑波」めがね卵
昭和の喜劇役者・古川緑波は、
戦時下でも、撮影や公演で、各地を訪れる。
行く先々でも、旨いものを食べるために苦心していた。
大阪で舞台千秋楽の後、食べるものがない。
今夜はウイスキーを一人で飲もう
宿には何の肴もない
一個一円二十銭で買った卵を二つ
めがね卵にしてもらって
それで飲む
しみじみと、めがね卵を見た
こんなによく見たことははじめてだ
塩をふりかけて先ず白身を少し食べる
黄身がトロリと溶けた
黄身を食べる うまいな
めがね卵は よきもの
二つの卵はウイスキー三杯の間に
なくなってしまった
皿には黄身が少しついている
皿を手に取るや ペロリと舐めた
そして又 一杯
めがね卵は もういない
切ないが、とてもおいしそうだ。