2015 年 11 月 のアーカイブ

中村直史 15年11月28日放送

151128-03
music2020
編み物のはなし グレン・グールド

極度の潔癖症でしられたピアニスト、
グレン・グールド。
彼は、極度の寒がりでもあった。

夏でも暖かいセーターにマフラー。
毛糸の帽子をかぶることもあった。

からだの感覚も、精神の感覚も、
ふつうの人とはちがっていたのか。

でも、そんなグールドの演奏するピアノ曲が、
人類を代表する音の一つとして
今日も宇宙を旅している。

いつの日か、グールドを聴いた宇宙生命体は、
人類をどんな生き物だと想像するだろう?

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三島邦彦 15年11月28日放送

151128-04

編み物のはなし アルベール・アンカー

スイスの国民的画家、アルベール・アンカー。

19世紀のスイスの
地方の暮らしを鮮やかに描いた。

にしても、編み物と少女の絵が多い。
たとえば、こんなタイトルたちだ。

「編み物をする少女」
「編み物をする二人の少女」
「バスケットを持って編み物をする少女」
「窓のそばで編み物をする少女」
「眠る幼児を見ながら編み物をする少女」

どの絵でも、
少女たちは目をふせ、一心に編み物をしている。

車の音も、ケータイの着信音もなかったころの
田舎の静けさが聞こえてきそうだ。

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中村直史 15年11月28日放送

151128-05

編み物のはなし フランソワ・クープラン

バロック音楽の作曲家
フランソワ・クープラン。

優美で洗練された、
いかにもフランスらしい小作品を残した。

代表作「クラブサン曲集」は、
230にも及ぶ組曲で構成される。

その曲名の一つ一つが、
18世紀フランスの息吹を生き生きと伝えている。

「森の妖精」
「猫なで声」
「心地よい恋やつれ」
「恋の夜鳴うぐいす」
「小さな風車」

そして「編み物をする女たち」

編み物は、ずっとヨーロッパ人の
心の風景だったのかもしれない。

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蛭田瑞穂 15年11月22日放送

151122-01
Photos by Lina
愛のかたち 髪結いの亭主

フランスの映画監督パトリス・ルコントの作品、
『髪結いの亭主』。

美人の理髪師と結婚する。
幼い頃に抱いた妄想を、
中年を過ぎてついに叶えたアントワーヌ。

妻マチルドが客の髪を切る姿を日がな一日眺め続ける日々。
アントワーヌにとっては夢のような生活。

しかし、その幸福は唐突に終わる。

マチルドはある日、雨のなかを飛び出し
増水した川に身を投げてしまうのだ。

夫が自分を崇拝する幸せの絶頂で死にたい。

愛するがゆえに愛から逃げる。
そんなかたちの愛もある。

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蛭田瑞穂 15年11月22日放送

151122-02
Kelvinsong
愛のかたち her / 世界でひとつの彼女

映画の誕生以来、
さまざまなヒロインがスクリーンに登場してきたが、
ひときわユニークなヒロインがいる。

アメリカの映画監督スパイク・ジョーンズの作品、
『her / 世界でひとつの彼女』に登場するヒロインは
コンピュータのオペレーティングシステム。

サマンサと呼ばれるそのOSは人工知能を持ち、
人間とコミュニケーションをとることで成長し、
やがては感情も芽生える。

妻に離婚を迫られ、鬱屈とした日々を送っていた男が
サマンサをコンピュータにインストールすることから、
人間とコンピュータの恋愛が始まる。

肉体の存在しない愛。
そんなかたちの愛もある。

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蛭田瑞穂 15年11月22日放送

151122-03

愛のかたち シラノ・ド・ベルジュラック

フランスの劇作家エドモン・ロスタンの戯曲、
『シラノ・ド・ベルジュラック』。

詩の創作と剣の腕前は一流だが、
巨大な鼻をコンプレックスに持つ主人公シラノ。
彼はロクサーヌという女性を愛していたが、
そのコンプレックスゆえに打ち明けられないでいた。

すると、ロクサーヌから意中の男性がいることを告げられる。
そして、その男性もまたロクサーヌに秘かに想いを寄せていた。

相思相愛の仲を知ったシラノは
文才のない男性に代わってロクサーヌに恋文を書く。
それはシラノ自身の想いを綴った手紙でもある。

シラノの橋渡しによって、ふたりは結ばれる。

愛のために身を献ずる。
そんなかたちの愛もある。

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森由里佳 15年11月22日放送

151122-04
tsuntsun3
愛のかたち 月にこめた愛

「月が綺麗ですね」

夏目漱石は、I love youをそう訳したと言われている。

遠いアメリカでも、同じように、
愛の言葉を月に託した男がいた。

フランク・シナトラがヒットさせた
ジャズのスタンダードナンバー「Fly me to the moon」。

 Fly me to the moon.
 In other words, hold my hand.
 In other words, baby, kiss me!

 わたしを月に連れてって。
 つまり…手をつないで。キスをして。

同じ月に託した言葉でも、
シナトラのそれは、漱石よりも、積極的だ。

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森由里佳 15年11月22日放送

151122-05
alex_ford
愛のかたち 音楽にこめた愛

天才、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。

ピアノソナタ14番の通称、「月光」は、
詩人ルードヴィヒ・レルシュターブから寄せられた次の賛辞に由来する。

「湖の月光の波に揺らぐ小舟のようだ」

第一楽章のロマンティックさとは裏腹に、
第三楽章の昂ぶる旋律は、あふれる想いの独白にもとれる。

それもそのはず。
この曲は、当時想いを寄せていた女性に捧げたものだった。
相手は、伯爵令嬢。叶うことのない身分違いの恋だった。

天才の恋は、消えゆく月光のように、
打ち明けることなく静かに幕を閉じたのだろう。

数ある書簡集の中に、
彼女に宛てた手紙は、1通も見つかっていない。

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森由里佳 15年11月22日放送

151122-06
naquib fadzil
愛のかたち 意地悪にこめた愛

鬼才、セルジュ・ゲンズブール。
浮名の多い彼も、女優ジェーン・バーキンとは長く連れ添った。

「彼女のどこが好きか?」
と質問された時、ゲンズブールはこう答えたという。

「彼女の心の中にいる俺」

多くの美女とのスキャンダルをもつ男の言葉は、
自信に満ち、傲慢、冷酷にすら聞こえたかもしれない。

だが、ゲンズブールの死後、
ジェーン・バーキンはこのように語っている。

 彼の、私に対する悪意だと思っていたことは全部、
 感受性の強い、恐ろしくロマンチックな人間の自己防衛だったの。
 彼は自分のことを「偽の意地悪」と言っていたけど、本当にそうだわ。

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飯國なつき 15年11月22日放送

151122-07

愛のかたち それぞれの愛

作曲家エドワード・ウィリアム・エルガーは
29歳のとき、ピアノの弟子を取った。

キャロライン・アリス・ロバーツ。

その後、エルガーの妻となり、仕事のマネージャーとなり、
心の支えとなり、音楽には的確な批評を与え続けたアリス。
彼女の日記にはこう残されている。

「天才の面倒を見るというのは、
 いかなる女性にとっても
 生涯の仕事として十分なものです。」

彼女への贈り物として、
エルガーは、ヴァイオリンとピアノのための小品
『愛の挨拶』を捧げた。

2人それぞれが、心をこめて形作った
愛のかたちがそこにあった。

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