「作家の犬」壇一雄の言葉の無用な家来
坂口安吾のつてで檀一雄のもとに来た秋田犬ドン。
あんなに哀願したのに、飼い方は人畜雑居。
ドンの喰い落としをフミが拾えば、
ドンもまたフミの喰い落としを拾う。
絶え間なく犬がいた家だった。
しかし主が「絶え間なく」家にいた、とは言いがたい。
壇が帰ってくると、犬たちは狂喜して駆けつけ、とびつく。
壇は、犬たちを叱らない。
愉快そうに笑いながら、背中を叩いて
わかった、わかった、お前さんは、エライよと言う。
子どもたちも、言葉が達者になる前は、
同じように言われていた。
「火宅の人」に
私は、言葉の無用な家来共が大勢いる
という一節がある。
子どもも犬も、言葉は無用。
この家来共に大勢囲まれていた時期が、
壇にとって、いちばん幸せだったのではないかと、
娘のフミは、振り返る。