Jeff.C
もう会えないひと。 夏目漱石
日陰町というから、いまの新橋あたりだった。
夏目漱石は人力車に乗った美しい人を目にする。
雨のなか、漱石はその人から目を離すことができずに
見惚れていると
その人はすれ違うときに丁寧な会釈をした。
ああ、大塚楠緒子(おおつかくすおこ)さんだ。
漱石はそのとき初めて、
その美しい人が、かつての失恋の相手であり
大学時代からの友人、大塚保治の妻になっている
大塚楠緒子と気づく。
その人が若くして亡くなったとき
漱石はこんな句でその死を悼んでいる。
あるほどの 菊投げ入れよ 棺の中
漱石の永遠のマドンナだった大塚楠緒子。
失恋と死別、二度の悲しみを漱石に与えた。