大友美有紀 16年6月5日放送
「棟方志功」大鉢
昭和11年、棟方志功は春の国画会に
板画作品「大和し美し」(やまとしうるわし)を出品する。
これが思想家・柳宗悦の目に留まり
半年後に開館する日本民藝館の買い入れ作品となった。
棟方志功が「世界のムナカタ」へと飛躍する第一歩だった。
作品納入の時、棟方は初めて柳邸を訪れた。
創作版画の先達から、家中にあるものはみな宝物だから、
そそっかしい君は気をつけなくてはいけないと諭されていた。
体中から湯気が出る思いで部屋に通されると、
正面にどっかりと据えられた大鉢に眼が吸い寄せられた。
見惚れて柳の存在すら忘れた。どんな名人の作だろうと
興奮でがんがんと心臓が鳴り、ぐったりと疲れるほど締め付けられた。
我に還り「イギリス製でしょうか」と尋ねる棟方に、
柳は「これは九州の職人が作ったうどんをこねる鉢で、
誰かを感心させようとして作られたものではない」と説明した。
希有のものより、普遍のもの。
ほんとうのモノは、名前が偉くならなくても仕事が美しくなる。
それまで有名になることだけを目標に
創作に取り組んできた棟方にとって、
柳の言葉は、天地が逆転するほどの衝撃であった。