「棟方志功」絵燈籠
板画家・棟方志功の生家は青森市の
善知鳥(うとう)神社の鳥居前にあった。
毎日この境内で遊んだ。
ねぶたに浮かれる青森の短い夏が過ぎると、
善知鳥(うとう)神社のお祭りがある。
宵宮を控え鳥居の前には大幟(のぼり)が立てられる。
14、5歳の頃、兄と家業の鍛冶屋を切り盛りしていた志功は、
幟の金輪の一切を任された。一生の誇りとして覚えている。
社務所に掲げられた二間もある絵燈籠にも眼を奪われた。
1本の木に紅や紫、黄色に彩りされた大牡丹の花が咲く絵だった。
志功は、こんなウソを描いて大人たちは喜んでいるのかと、
不思議でならなかった。しかしそれこそ本当の絵だと後に悟る。
自然とは別な、絵としての自然が
ここに表現されたんだ。
牡丹そのものの花ではない。
これは絵から生まれた牡丹だと思った。
「嘘で表せねば表せない真実」
陶芸家・河井寛次郎が口にした言葉を、棟方は書き留めていた。
彼は「絵の花」を生涯描き続けた。