lucylarou
昆虫採集 田淵行男
山岳写真家であり、
蝶の研究者でもあった田淵行男。
4歳で母を亡くし、
幼少期のほとんどを外で過ごした彼にとって、
虫は一番の友達だった。
自らの誕生日の6月4日を勝手に「ムシの日」と呼び、
虫との絆を自慢していた程である。
ある時いつものように虫を追いかけていると、
巨大な青紫の羽を広げたオオムラサキが
田淵少年の虫取り網をひらりとすり抜けた。
彼が蝶の虜になった瞬間だ。
やがて、蝶は彼の生きがいになっていく。
わずか13歳にして、母についで父を亡くした時も。
戦争で強制疎開を命じられた時も。
パーキンソン病を患った時も。
蝶を探して山に登っている間は、すべてを忘れられた。
生涯をかけた蝶探しの旅と新発見の数々は
国内外で広く称えられたが、
当の本人は、何度も幼少期をやり直せたかのようで
ただ嬉しかったと、静かに笑っていたという。