大友美有紀 16年10月2日放送
sun_line
「作家と本」いとうせいこう・可能性の天国
作家であり、クリエイターであるいとうせいこうは、
本を生き物に近い感覚で扱う。
だから他人の本棚で逆さになっている本が許せない。
生き物を逆さ吊りしているのと同じ残酷きわまりない行為だと感じる。
誰にも買われていない本が大量に並ぶ書店は
楽園のような場所である。
特に逆さに置かれた本がない書店なら、
中に立っているだけで心躍る。
どんなに古い本でも、人の手によって
繰られていなければそれは新しい。
その新しい生き物を最初に買う可能性が
自分にあるのだと思うと、
その可能性の喜びに体が震えてきそうになる。
書店は、いとうにとって可能性の天国だ。
だから何も買いたくなくなることさえある。
買ってしまえば、可能性が現実に狭まり、
書店に立っていた時の圧倒的な喜びが消えてしまうからだ。