河田紗弥 17年3月11日放送
樋口一葉 恋の食
戦後はじめて紙幣の肖像になった女性で
「たけくらべ」や「十三夜」などの作品で知られる樋口一葉。
小説を書き始めたばかりの頃、
指導係として紹介された小説家の半井桃水に
彼女は恋心を抱いた。
出会って1年後のある冬の日。
みぞれまじりの雨が降るのも構わず、
彼女は、指導を受けに行くために彼の家に向かった。
ところが、彼は寝ている様子。
結局、彼女は玄関先で約2時間近く彼の目覚めを待っていた。
桃水は、そんな彼女のために、汁粉をつくった。
「盆はあれど、奥に仕舞い込みて出すに遠し。箸もこれにて失礼ながら。」
と餅を焼いた箸を添えて出したという。
大きな鍋に小豆とざらめをたっぷりと入れて、沸騰させる。
一晩置いて、豆の芯まで甘さがぎゅっと浸透したそれに、
くず粉を回しいれて、とろっとさせる。
冷え切った彼女の身体を温めるために、くず粉を入れたのが、
桃水なりの気遣いであった。