2017 年 8 月 19 日 のアーカイブ

渋谷三紀 17年8月19日放送

170819-01

松本清張と珈琲

松本清張の代表作「点と線」には、
有楽町の喫茶店が登場する。
刑事の三原がコーヒーを飲みながら、
容疑者のアリバイ崩しに思考を巡らせる場面だ。

清張自身、自宅でも出先でも、
よくコーヒーを飲んだ。
スプーン三杯の砂糖を入れた、
甘いコーヒー。

これといった趣味を持たず、
膨大な仕事に立ち向かった清張にとって、
珈琲は、かけがえのない相棒だった。

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渋谷三紀 17年8月19日放送

170819-02

三島由紀夫と珈琲

作家の三島由紀夫は、
コーヒーよりも紅茶を好んだ。
深夜の執筆には、
いつも紅茶を準備した。

「夜会服」という三島の小説がある。
前半に描かれる優雅なアフタヌーンティとは対照的に、
最後に登場するのがコーヒーだ。

溺愛する息子との仲を割かれた姑が、
一人で飲むコーヒーの味についてこう語る。

「自分を助けてくれる人はもう誰もいない。
 なんとか一人で生きていかなければ、と言う味なのよ。」

三島にとってのコーヒーが、
その行間から透けて見える。

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渋谷三紀 17年8月19日放送

170819-03
jotpeh
中上健次と珈琲

活字になったものは
ぜんぶ喫茶店で書いた、
と語るのは、作家の中上健次。

行きつけだった西新宿の喫茶店に入ると、
まずコーヒーを注文する。
一口飲み、原稿を書き進めるうち、
店の音楽も客の話し声も聞こえなくなってくる。
その時の自分の心持ちを、中上はこう言った。

 人はいるが、誰もいない。私一人だ。

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渋谷三紀 17年8月19日放送

170819-04
zunsanzunsan
井上ひさしと珈琲

作家の井上ひさしは、
息子が幼い頃、
よく二人で散歩に出かけた。

おもちゃ屋さん、本屋さんを回った後は、
決まって喫茶店でコーヒーを飲んだ。

井上は、店主の個性が
そのまま店の雰囲気になっているような、
小さな店を贔屓にした。
その店で、お客さんを観察したり、
店主と話すのが好きだった。

井上作品の生き生きとした会話は、
そんなところから生まれたのかもしれない。

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渋谷三紀 17年8月19日放送

170819-05
Chris Campbell
茨木のり子と珈琲

詩人、茨木のり子。
毎朝、電動ミルで珈琲を挽き、
ケトルでお湯を沸かして、朝食に飲んだ。

のり子の書いた「食卓に珈琲の匂い流れ」という詩がある。
農家の納屋の二階に住んでいた戦時中に飲んだ
インスタントコーヒーの味を思い出し、
「豆から挽きたてのキリマンジャロ」や
「一滴一滴したたり落ちる液体の香り」をよろこぶのり子。
「やっと珈琲らしい珈琲がのめる時代」と綴った。

当たり前のように見えて、
当たり前ではない。
それは、しあわせの匂いだった。

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