仲澤南 17年9月30日放送
翻訳のはなし 清水俊二
日本を代表する翻訳家の一人、清水俊二。
彼はその生涯の間に、
2000本近い映画の字幕翻訳を行った。
中でも、1955年の映画「旅情」に、
彼の仕事が見えるワンシーンがある。
恋人がほしいなら、高望みせずに自分と付き合えばいい、と
ある男性がヒロインを口説くのだ。
「ステーキが食べたくても、
飢えているなら目の前の“ラビオリ”を食べろ」
このシーンには、こんな字幕がついた。
「ステーキが食べたくても、
飢えているなら目の前の“スパゲティ”を食べろ」
映画が公開された1955年当時、
日本でラビオリを知る人はほんの僅かだ。
直訳のままでは、字幕がストーリーの邪魔をする。
原作の世界を壊さずに、文化や時代の溝を埋める、
字幕翻訳ならではの技術が生んだ台詞だった。