住まいが語るもの/坪内逍遥
作家、坪内逍遥が晩年、居を構えたのは
熱海の水口村だった。
それまでの仕事場だった荒宿は
少しずつ騒がしくなり嫌気がさしていた。
閑静な場所を選び、
自ら図面を引いた新たな住まい。
そこには立派な柿の木が二本立っており、
双柿舎と名付けられた。
母屋は茅葺の二階建て。
応接間のほかに十畳の客間、
七畳の茶の間があり、
二階は書斎となっている。
「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ。」
そんな言葉を残した逍遥。
全てを俯瞰で見つめる作品は、
こだわり抜かれた一室で突き詰められた。