「猫は一生の伴侶/大佛次郎」始まりの猫
文筆家・大佛次郎が、
小学校に上がったばかりの頃。
引っ越した先の家に
前の住人の飼い猫がいた。
荷物が片付かない家の中に
黙って入ってきて、台所の板の間に
うずくまって離れなかった。
冬になると必ず僕の床の中に入ってきて寝たし、
僕が外から帰ってくると、
足音で玄関まで迎えにきたくらいよく慣れていた。
この猫が亡くなると、女中が庭の隅に埋めてやった。
大佛は、猫のことを思い出すと誰にも見つからないように
墓へ行き、土を撫でてやった。
これが大佛と猫との交渉の始まりだった。