藤本宗将 17年12月16日放送
電話のはなし 夏目漱石
無類の手紙好きとして知られ、
その生涯で2500通余りも書簡を残している夏目漱石。
けれど、電話をするのは得意ではなかったらしい。
自宅に電話機を据え付けたばかりの漱石が、
東京朝日新聞社の同僚に使い方を尋ねた手紙が見つかっている。
「先刻 電話をかけたれど 通じたようで通じないようで」
「社の電話は 何番を用いれば用足るや」
「小生 田舎ものなり。一寸教えて下さい」
いまで言えば、メールの使えない人と同じだろう。
あの文豪が当時最先端の機械の前で
ほとほと困惑している様子が目に浮かぶようだ。
その後も苦手意識は克服できなかったようで、
漱石の電話嫌いはどんどんエスカレートしていった。
電話が鳴るとうるさいからと、
受話器を外させておいたという逸話も残っているほど。
神経質で、何事も自分のペースで進まないと気が済まない。
そんな漱石は、そもそも電話と相性が良くなかったのかもしれない。
おかげで私たちは、手紙に綴られた漱石のことばに
いまも触れることができるというわけだ。
けれどできることなら、
漱石先生がどんなふうに電話していたのか
見てみたいような気もする。