一円五千円 樋口一葉
小説で、母と妹を養いたい。
樋口一葉の覚悟は、
日本女性初の無謀な賭けだった。
生活は苦しかった。
なじみの質屋、伊勢屋に走る。
数着の着物を、
数枚の一円札に。
何度も、何度も。
24歳の若さで一葉が亡くなったとき、
伊勢屋の主人は、一円の香典を包んだという。
一円に困っていた自分の顔がまさか、
五千円札の肖像になるなんて。
一葉が知ったら、どんな顔しただろう。
現金書留に五千円札を入れて、
明治の一葉宛、送ってみたくなる。
一円五千円 樋口一葉
小説で、母と妹を養いたい。
樋口一葉の覚悟は、
日本女性初の無謀な賭けだった。
生活は苦しかった。
なじみの質屋、伊勢屋に走る。
数着の着物を、
数枚の一円札に。
何度も、何度も。
24歳の若さで一葉が亡くなったとき、
伊勢屋の主人は、一円の香典を包んだという。
一円に困っていた自分の顔がまさか、
五千円札の肖像になるなんて。
一葉が知ったら、どんな顔しただろう。
現金書留に五千円札を入れて、
明治の一葉宛、送ってみたくなる。
たにぐち
二眼二行 樋口一葉
樋口一葉、名は奈津。
七つのころから、
本が好きで好きで、しょうがなかった。
羽子板より、お人形より、読書。
読むのが抜群に速く、
「眼が二つあるから二行ずつ読める」
「里見八犬伝全98巻を三日で読んだ」
と伝わるほど。
読書への熱中を
母はよく思わなかったので、
奈津はこっそり薄暗い蔵で眼を輝かせ、
むさぼり読んだ。
奈津から一葉へ。
好奇心と読書が、
近代初の職業女性作家の芽を育んだ。
Richards
ひ夏い夏 樋口一葉
樋口一葉は、小学校を首席で卒業した。
母の反対で進学はかなわなかったが、
父は娘の才能を見抜き、
和歌を習う「萩の舎」に入門させた。
そのころの名前は、樋口夏子。
塾には、もう一人の夏子がいた。
伊東夏子。
ひ夏ちゃん、い夏ちゃん
と呼びあう親友。
塾は、贅沢な着物の
伯爵や侯爵のご令嬢たちばかり。
ひ夏ちゃん、い夏ちゃんは平民組。地味な着物。
和歌の短冊には、身分まで書く決まりだった。
「わたしたち、爵という面倒な字を
書かなくていいね」
と、笑いあった。
ユーモアと反骨心。
ひ夏ちゃん、明治の青春。
reza_shayestehpour
雨女雪女 樋口一葉
19歳。樋口一葉は、恋に落ちた。
小説の指導をお願いに、
新聞社の小説記者半井桃水に初めて会った日、
雨が降っていた。
それから一葉が訪ねるたびに、雨、雨、雨。
着物をびしょ濡れにしても、
下駄が泥まみれになっても、
こころは弾んだ。
桃水は、ほほえんだ。
「君が来るときは、いつも雨だね」
冬の雨は、よこなぐりの雪に変わった。
かじかんだ体で桃水の隠れ家に着くと、
いびきが聞こえた。
一葉は、底冷えのする玄関で1時間ほど待ってから、
コホンとせきをした。
「早く起こしてくれればいいのに。
遠慮が過ぎますよ」
桃水は火鉢に火を熾し、
しるこをこしらえて、一葉に食べさせた。
降りしきる雪。
二人きり。
一葉の短い生涯の、最良の日。
奇跡十四ヶ月 樋口一葉
日本文学史上に輝く、
樋口一葉・奇跡の十四ヶ月。
『たけくらべ』『にごりえ』をはじめ
傑作の数々は、一葉の晩年の
驚きべき短期間に書き上げられた。
一葉の小説が載った文学雑誌は飛ぶように売れ、
森鴎外や幸田露伴といった
文壇の大作家たちは一葉の小説にとどまらず
人となりまで絶賛。
家の表札まで盗まれ、
まるでトップアイドルのような一葉。
そのさなか、肺結核という悲劇に侵された。
ハッピーエンドはまずない自分の小説のように、
一葉24歳の生涯だった。
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