名雪祐平 18年3月31日放送
reza_shayestehpour
雨女雪女 樋口一葉
19歳。樋口一葉は、恋に落ちた。
小説の指導をお願いに、
新聞社の小説記者半井桃水に初めて会った日、
雨が降っていた。
それから一葉が訪ねるたびに、雨、雨、雨。
着物をびしょ濡れにしても、
下駄が泥まみれになっても、
こころは弾んだ。
桃水は、ほほえんだ。
「君が来るときは、いつも雨だね」
冬の雨は、よこなぐりの雪に変わった。
かじかんだ体で桃水の隠れ家に着くと、
いびきが聞こえた。
一葉は、底冷えのする玄関で1時間ほど待ってから、
コホンとせきをした。
「早く起こしてくれればいいのに。
遠慮が過ぎますよ」
桃水は火鉢に火を熾し、
しるこをこしらえて、一葉に食べさせた。
降りしきる雪。
二人きり。
一葉の短い生涯の、最良の日。