長谷川智子 19年10月19日放送
Citron
太宰治きりぎりす
太宰治の短編「きりぎりす」。
貧乏画家だった夫が、
成功し金と名声にまみれる俗人になったのに嫌気がさし、
離婚を切り出す妻。
物語は、
妻が、布団の中で虫の音を聞きつつ終わる。
「この小さい、幽かな声を一生忘れずに背骨にしまって生きていこう」
きりぎりすの澄んだ声に
背筋をただし、俗世と決別するという一般的な解釈だが。
一人寝の夜のきりぎりすの声は
これからの人生の寂しさを示すようでもある。
秋の一夜の物語。