野村隆文 20年9月19日放送
私には現実
初めて空を飛んだとき、
人類は大きな風船に乗っていた。
バーナーで空気をあたためることで上昇し、
風まかせで推進していく、
シンプルで原始的な移動手段、熱気球。
そんな熱気球の滞空時間と飛行距離で、
世界記録を樹立した日本人がいる。
彼の名は神田道夫。
公務員の仕事をしながら、無謀とも思える挑戦をつづけ、
最後は太平洋横断に挑戦し、そのまま帰らぬ人となった。
妻である美智子さんは、のちにこう語っている。
「気球は夢のものだけど、私にとっては現実ですよ。
残されちゃうんですから」
冒険には、無謀を伴う。
冒険家は、常に目標だけを見据えて突き進む。
しかしその傍らには、
静かに現実を見つめている人がいることを、
忘れないようにしたい。