三島邦彦 11年5月22日放送
生き物のはなし/コンラート・ローレンツ
卵からかえったひなは、
最初に見た生き物を母親だと思いこむ。
この、「刷り込み」理論の研究などで、
動物行動学をうちたてたノーベル賞学者、コンラート・ローレンツ。
従来の動物学の主流であった解剖による研究とは一線を画し、
生きた動物とともに暮らし、
徹底的に観察することによって、
その行動に隠された法則を発見した。
幼いころから家に様々な動物を引っ張り込んでは
熱心に観察していた彼。
一緒に暮らす両親や妻の忍耐が、
彼の生き生きとした発見を支えていた。
彼はそんな自らの研究生活への
家族の理解に深く感謝し、こう語った。
ネズミを家の中で放し飼いにして、そいつが家じゅう勝手に走りまわり、
敷物からきれいなまるい切れはしをくわえだして巣をつくっても
我慢してくれ、といえる夫は、私のほかにはいそうもない。
生き物のはなし/ファーブル
「哲学者のように思索し、芸術家のように観察し、
詩人のように感覚し表現する偉大なる学者。」
と称えられた昆虫学者、ファーブル。
彼が人生をかけて何度も追加や修正を繰り返した『昆虫記』は、
単なる観察記録に終わらず、世界への発見に満ちている。
晩年、その『昆虫記』の決定版を完成させるにあたり、彼はこう語った。
昆虫の世界は実にあらゆる種類の思索の糧に富んでいる。
もしも私が生まれ変わり、また幾度か長い生涯を再び生き得るものとしても、
私はその興味を汲みつくすことはないであろう。