三國菜恵 11年6月12日放送
あの人の師/戸田奈津子
職業のなかにはいくつか、
「どうやったらなれるのかわからないもの」がある。
戸田奈津子(とだ・なつこ)さんも悩んでいた。
映画字幕の翻訳家になりたいけれど、なり方がわからなかった。
そこで彼女は、映画のエンドロールの中に、師匠をさがすことにした。
字幕翻訳家、清水俊二(しみず・しゅんじ)。
生涯で2000本もの映画を翻訳した、重鎮だった。
清水さんは戸田さんに、簡単には仕事をくれなかった。
それどころか、いつもこう聞いた。
まだ、あきらめないの?
そのたびに戸田さんは言った。「あきらめません」。
いま、映画のエンドロールに、彼女の名前を見ない日はない。
それは、師匠が鍛えてくれたねばり強さの証かもしれない。